約 4,593,459 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1534.html
12 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 34 26 ID o9Rjb4dh 「か、くささん」 僕の口から出た声はかすれていた。 背後からポポが翼を広げる音が聞こえる。 「ど、どうしたの? 変なゴールド」 どうしたのと問うておきながら、当の香草さん自身にも動揺が見える。 というか、挙動が不審といった方がいいのか? 目はあからさまに泳いでいるし、手は落ち着きなく、所在なさげに体の前を彷徨っている。 動揺している香草さんを見ることで、反対に僕は少し落ち着きを取り戻した。 「香草さんこそ、どうしたの、その服。まるで病院から抜け出してきたみたいじゃないか」 僕がそう言うと、香草さんは慌てた様子で患者衣の上に手を走らせた。 「ち、違うの、これは急いでいたから……」 「何か急ぐことでもあったの?」 「な、何も! あ、あはは、そうよね。何を慌ててたんだろ、私……」 彼女はそう言って息を漏らした。 そうして、僕から視線を外し、僕から見て右下の辺りを見た。彼女の視線の先を辿ってみたが、そこには地面以外のものは特にない。 おかしい。 香草さんは確実におかしい。 僕はすぐにそう思った。 いや、このおかしいっていうのは今までと違うって意味のおかしいで、決して頭がおかしいとかそういうことでは…… とにかく、患者衣だとかそんな些細なことではない、もっと根本的なずれのようなものを感じた。 周りの景色は動いていくけど、僕たちは誰一人動かない。 まるで僕達だけ世界から取り残されたような、そんな気分だ。 「と、とりあえず、中に入ろうよ」 道行く人の視線でそのことに気づいた僕は、皆を促す。 後ろを向くと、ポポはまだ険しい表情をして翼を振り上げたままだった。 いつでも飛びかかれるようにしているのだろうか。 やどりさんは相変わらずぼーっと……いや、やどりさんも厳しい表情をしていた。 これも進化の賜物か。 ポポは僕と目が合うと、すぐに視線を逸らし、翼を下げた。 僕はポポの頭にポンと手を置く。 やどりさんは香草さんを睨みつけたままだ。 睨みつけられた香草さんはおどおどと地面を見る。 「やどりさんも、ね?」 僕はやどりさんの手をとり、笑顔を作った。 彼女はしぶしぶ、といった様子で僕に随った。 しかしまだ後ろの香草さんを警戒している。 並んで歩く僕達の後ろを、五メートルくらい遅れて香草さんがついてくる。 その動作にはどこか遠慮が見て取れた。 僕達が部屋に入っても、彼女は入り口の扉の前でオロオロするばかりで、部屋に入ろうとしない。 「そ、そんなところにいないで入ってきなよ」 彼女があまりにも挙動不審なので、僕も若干動揺しながら声をかけた。 「う、うん」 相変わらずぎこちない動きで、僕(右にポポ、左にやどりさんが座っている)と向かい合う形でベッドの縁に腰掛けた。 「あ、ええっと、体はもう大丈夫なの?」 「え、ええ」 「それならよかった」 「よかったですねえ。なら、もうどっかいってくれないですか?」 僕達のぎこちない会話に、ポポが割って入った。それもとんでもない暴言で。 「ポポ!」 「忘れたとは言わせないです? チコは確かに言ったです。『負けたら契約を解除しろ』です」 ぽ、ポポーー!! 「そ、そもそも僕はそれにうんと言った覚えはないよ!」 何とかポポを止めようと僕は使い古された言い訳を繰り返す。 僕を見たポポは、急に弱気というか、儚げな感じになって言う。 「ゴールド……ポポ達じゃ不満です?」 「う、な、何を言って……」 「ポポ、チコみたいにわがまま言わないです。ゴールドを傷つけたりもしないです。ただゴールドがポポを好きだと言ってくれるなら、いや、大切に思ってくれるなら、それだけでいいです。それだけで何でもするです。どんなことでも……たとえそれが悪いことでも……」 ポポの言葉で僕の心臓は跳ねた。 13 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 35 08 ID o9Rjb4dh 「どうしてそれを!」 その言葉を発した瞬間、彼女達は一様に不思議そうな顔をした。 しまった。 誰にも話してないんだ、誰も知っているわけがない。 悪いことっていうのはただの一般論だ。 墓穴を掘った。 「あ、いや、なんでもない」 慌てて取り繕うが、皆、僕が何かを隠していることに気づいてしまっただろう。 白々しいと思いつつも、慌てて話を逸らす。 「そ、そんなことより……」 「私も、ポポと同じ。ゴールド、私……ゴールドと出会わなかったら……一生進化も出来なかった。ゴールドは大切な人。私にとっては、この世界の……すべてよりも」 僕の言葉に被せるように、やどりさんが凛とした調子で言った。 な、やどりさんまで! そもそも一生進化できなかったとか、大げさだよ! 僕が口を開く前に、やどりさんは香草さんに向き直り、言葉を続けた。 「あなたは……どう?」 「わ、私は……」 問いかけられ、言いよどむ香草さん。 そんな彼女を、ポポは鼻で笑った。 「決まりです。ゴールド、はっきりしたですよ。あんなの……」 「あんなのいらないです」 瞬間的に、室内は静寂に包まれた。 何の音もしない。誰も口を開かない。 フォローの言葉も考え付かない。頭が真っ白だ。 ポポはこんな大それたことを言ったにも関わらず平然と香草さんを見ている。やどりさんも、無機質な瞳で香草さんを見ていた。 香草さんは俯き、肩をブルブルと震わせている。 今の彼女の内面に渦巻くのは、屈辱か、混乱か、それとも、もっと別の何かか。 「ふ……」 香草さんの口から、息のようなものが漏れた。 何だろう、嫌な予感しかしない。 僕は体を固くした。 「ふざけるなこの下等生物が! さっきから黙って聞いてればいい気になりやがって!」 香草さんが、きれた。それも今までで最悪だ。 顔を上げた香草さんから、荒々しい罵倒の言葉が飛び出した。 怒りで彼女の顔は鬼灯のように赤く、発せられたその声はもはや絶叫に近い。 嫌な予感は見事的中だ。 外れてくれても何も困らないって言うのに。 僕の顔が恐怖で引き攣る。 「大体、ゴールドも何でさっきから言うがままにさせてるのよ! 私のことなんかどうでもいいっていうの!?」 決してそのようなことはないと言いたいけど、余計な弁明は彼女の怒りをさらに燃え上がらせそうだ。 というかそもそも会話が可能な状態に思えない。 彼女は僕の沈黙(と言ってもコンマ数秒にも満たないわずかな間だった)を肯定の意思と受け取ったようだ。理不尽だ。 「そう、そういうこと。自分の思い通りになる女を二人も侍られて、アンタはさぞかしいい気分でしょうね!」 えええ!? なんでそういう話になるんですか!? 「この屑! 変態! ゴミ虫!!」 どうして僕はこういう方向で罵倒されてるんだろう。意味が分からない。 香草さんの気に入らないポイントはどこなの? 「香草さん、落ち着いて! 香草さんが何を言いたいのか、僕にはさっぱり分からない。後、ポポもやどりさんも、そんな軽々しく自分の人生を他人に預けるようなこと言っちゃダメだよ」 僕は出来るだけ角が立たないように、意識して柔和な声で言った。 しかし予想通り、香草さんは僕の言うことに聞く耳なんか持っていなかった。 一人で自分の世界を突っ走る。 進路上にいる僕の意思なんてお構いなしだ。 このままじゃ彼女という暴走車に轢かれてしまう。 「アンタみたいなゴミ虫、このままでは生かしてはおけないわ。有害生物として駆除されないように、たっぷりと教育する必要があるようね!」 えええええ!! さっぱり展開が理解できません! 何で僕は命の危機に!? な、何を言いたいか理解できなかったのがいけなかったの!? 14 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 35 31 ID o9Rjb4dh 「じょ、冗談でしょ?」 しかし彼女の言葉は性質の悪い冗談じゃなかったようだ。 袖口から数十の蔦が飛び出し、部屋を突っ切って僕に襲い掛かる。 それは僕が道具によって迎撃する前に、すべて地面に叩きつけられた。 隣を見ると、やどりさんが険しい表情をしながら右手を伸ばしていた。 「もう証拠としては十分。この女の本性は明白。ゴールドを傷つけるなら、排除する」 やどりさん、排除だなんてそんな。香草さんもやめてくれ。 僕の頭にそのような言葉が浮かぶか浮かばないかのその時。 瞬間、世界が混濁した。 上下左右の区別なく、視界は灰色の渦に包まれた。 室内の物と言う物がガリガリと音を立てながら壁を削り、自身も粉砕されていく。 同じく混沌の渦の中にある香草さんの悲鳴がそれに唱和した。 耳には痛いほどの音が雪崩こんでくる。 それなのに、どこか静けさすら感じる。 そんな狂乱の中にあって、僕とポポとやどりさんは平穏に包まれていた。 台風の目、渦の中心。 何と言っていいか、とにかく、この室内にあって、ここだけが平常時のような穏やかさだ。 あまりの騒乱に、僕の思考はすっかり麻痺してしまっていた。 胃液が胸にこみ上げてくる。 舌にかすかに酸味を感じた。 「や、やめてよやどりさん!」 僕がこう言いながらやどりさんに縋ったのは、この光景が生み出されてから優に十秒は過ぎてからのことだった。 混沌に包まれていた世界は瞬時に静止し、秩序を取り戻した。 一拍置いて、宙に浮かんだまま固められていたものすべてが部屋に降り注ぐ。 原型を留めているものはただの一つたりともなかった。 壁には猛獣が暴れ狂ったかのような荒々しい傷跡が無数に刻まれている。 そして、室内は朱で染め上げられていた。 埃っぽい部屋の空気に、鉄の臭いが確かに混じってるのが感じられる。 「か、香草さん!!」 真っ赤に染まった瓦礫の中からかろうじてそれを識別した僕は、すぐさま彼女に駆け寄ろうとする。 しかし体が動かない。 まるで金縛りにでもあったかのように……ってこれやどりさんの金縛りだ。 やどりさんに抗議を行おうとしたが首どころか瞼すら動かせない。 瞬きすら許されていない。 そのせいで部屋を舞いまくっている埃が目に入りまくって結構痛い。 しかし声も出せないのでそのことを伝えることも出来ない。 相当に強い金縛りだ。 進化によって増したのは行動の速度や活発さだけではなかった。 彼女の念動力は今までとは比べ物にならないくらい強くなっている。 あの香草さんが抵抗一つできず、襤褸切れのように扱われるなんて。 「起きろ。息があることは分かっている」 彼女はこんな凄惨な光景を作り出しておきながら、眉一つ動かさず、冷淡に血まみれの塊に呼びかける。 う、と呻き声を漏らした香草さんは上から吊り上げられたように不自然に立ち上がった。 いや、事実香草さんは立ち上がったのではなく、やどりさんの念力で吊られたんだろう。 吊られた香草さんは、乾いた咳とともに赤いものを口から吐いた。 香草さん! 声を出そうとしても口を動かすことすら出来ない。 涙が出てきた。 こ、これは埃が目にしみただけなんだからね! 勘違いしないでよね! 精一杯の虚勢を張らなければ、まともな思考すら保てそうにない。 吊られた彼女はゆっくりとねじれていく。 ギシギシという何かが軋む鈍い音とともに、床に血がポタポタと滴っていく。 落ちた血はすぐに厚く積もった埃に吸い込まれていった。 やめろ。もうやめてくれ。 僕は心の中で絶叫する。 目を背けたくても背けることすら出来ない。 圧倒的なまでの無力。 15 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 36 18 ID o9Rjb4dh 絶望感に打ちひしがれ、自分の意識を手放してしまおうかと思ったそのとき。 突然視界が閃光に包まれた。 ぎゃああああああ!! 瞼が閉じれないから目を瞑れない。 あまりの眩しさに脳が焼きつきそうだ。 意識ごと半ば白く塗り込められたところで、僕はガラスの蹴散らされる音を聞いた。 突然金縛りが解かれ、僕はそのまま崩れ落ちた。 のどの辺りまで酸っぱい物が競りあがってくる。 僕の思考まで白く染めたあの閃光。 香草さん渾身のフラッシュは見事全員の視界を塞ぎ、やどりさんを怯ませた。 それで念力が弱まった隙に窓から逃亡、ということだろう。 まだ目が見えないので憶測でしかないけど。 「逃げられたです……」 ポポの残念そうな呟きが聞こえる。 やはり僕の想像は間違っていないようだ。 先ほどの衝撃的な映像のショックだろうか、それとも強光をもろに受けたせいだろうか。酷い吐き気がする。 目が碌に見えないので手探りで、思うように動かない体を引き摺りながら窓際まで行く。 しかし僕の手に伝わってきたのは冷たくて固い壁の感触ではなく、暖かで柔らかい人の感触だった。 未だ回復しきらぬ僕の目に、ぼんやりとシルエットが映る。 僕はその影に呼びかけた。 「ポポ? 僕を窓まで案内してくれ。香草さんはどうなった?」 「あの女ならもう見えないです。案外余力を残してたみたいですねぇ。血の跡を追えば追いかけられないこともなさそうですけど」 ポポはこともなげに言った。 「ポポ、どうしてポポはそんなに平然としてられるんだ? 一緒に旅をしてきた仲間じゃないか。それがこんな……」 「仲間じゃないです。チコがそう言ってたじゃないです?」 「それは……」 「それにしても、チコは酷いことするです。最後の最後までゴールドを傷つけたです。でももう大丈夫です。もうチコはいないですよ」 ポポはそう言って、僕を胸に抱いた。 視力の戻ってきた視界に映ったのは、ポポの溢れるような笑顔だった。 何より恐怖を覚えながら、僕は上体だけ後ろに向けた。 「やどりさんだって、物には限度ってものがあるよ! これは明らかにやりすぎだ! それに最後、まともに抵抗も出来なくなった香草さんに何をしようとしたんだ!」 「……だって」 「だってじゃありません!」 僕がこういうと、やどりさんはまるで親に叱られた子供みたいな表情をした。 ああ、どうしてそんな困った顔をするのさ。 まるで本気で僕がどうして怒っているのか理解できていないみたいじゃないか。 みたいじゃなく、本当にできていないんじゃないか。 一瞬そんなよくない考えが脳裏をよぎったが、僕はそれをすぐにかき消した。 だって普通の人間なら当たり前に分かっているはずだ。 だから彼女達だって分からないはずがない。そうさ、そうに決まってる。 つまり、これはただの思い違いだ。 視力も戻ってきたし、今は説教を行っている場合じゃない。 一刻も早く、香草さんを見つけないと。 彼女の怪我は見るからに深刻だった。かなり動けるとはいえ、お医者さんに見せないと命に関わるんじゃないか? 僕はリュックを掴むと窓から飛び出した。 「とにかく、香草さんを連れ戻してくるよ!」 着地した僕は、地面に点々と付いた血の跡を辿って走り出した。 結局、これは無駄足に終わった。 あの重症、この短時間でどれだけ遠くに移動したのかと不思議になるくらい、血痕は長く遠くまで続いていて、そしてそれは街の外れで唐突に消えた。 街中ならともかく、この辺は殆ど人通りもない。目撃者は望めなさそうだ。 どうしてここで突然途絶えたのか。 僕は検討も付かず、出来ることも思いつかず、ただただ途方にくれた。 16 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 37 02 ID o9Rjb4dh 日が暮れたあとの道を、警察に届け出ようか迷いながらポケモンセンターに戻ると、ポポとやどりさんが事情聴取されていた。 激しく動揺したが、すぐに自分の浅慮に気づいた。 あれだけの破壊を行ったんだ、騒ぎにならないはずがない。 それなのに、気が動転した僕はそんなことにも気づかず飛び出してしまった。 婦警さんに話しかけた僕は、さらに驚愕することになる。 香草さんが指名手配されそうだ。 どうも、彼女達はあの惨状を香草さんが引き起こしたものだと説明したらしい。 確かに半ば間違ってはいないのだけれど、彼女達の説明は香草さんを一方的に悪に仕立て上げるような捏造だった。 その結果、重要参考人として指名手配されることになりそうなのだ。 僕は必死の説明を行ったけど、何せ二対一である。 しかも、他の人によって見つけられたときに僕は現場にいなかった。 いまいち証明として弱い。 婦警さんからはパートナーを不当に庇ってるんじゃないかと言わんばかりの目で見られ、責められた。 迂闊だった。慌てて香草さんを追いかけたりせずに、ちゃんと真っ先に周囲に説明しておけば。 もしかして彼女達が僕を止めなかったのはそのため? そんな疑念が生まれた。 結局、僕の必死の弁明が通じたのか、それとも彼女達の証言が証拠として不十分だと見なされたのか、とにかく、指名手配は免れた。 とはいえ、事件の参考人ではあるし、このままにしておくわけにはいかないので僕も捜索願を出した。 とりあえず責任の所在はうやむやになり、修繕費は保険屋さんからでるということで落ち着いたようだ。 どうやら多少設備が壊れることくらい日常茶飯事らしい。 尤も、ここまで酷いのは滅多にないけど、と苦笑いを浮かべながら言われたが。 「はあ……」 新たにあてがわれた部屋で、僕は深い溜息を吐いた。 ポポに気遣ってここ最近は吐かないようにしてたんだけど、もう我慢出来ない。 このままじゃ、僕の胃に穴が開いてしまう。 深く溜息を吐いた僕を、二人は困ったように見ている。 部屋に入るなり、そこに直れと僕が命じたため、彼女達は棒立ちすることしかできないのだ。 だからいつもの過剰なスキンシップを喰らう恐れはない。 「さて、色々言いたいことはあるけど、とりあえず……」 ここで一旦区切り、息を吐いた後、続ける。 「どうして嘘を吐いて、香草さんを犯人に仕立て上げたんだ?」 僕は成る丈険しい表情を作り、二人を睨む。 射竦められた二人は、慌てた様子で同時に弁明を始めた。 当然、僕は同時に話されても理解できないので、二人を制止する。 「言い訳は一人ずつ聞こう。まずはポポから」 「あの、ゴールド……怒ってるです?」 「ああ」 僕は出来るだけぞんざいにそう言い捨てた。 事実、僕はこの旅を始めて以来、最大の苛立ちを感じていた。 それが少々八つ当たり的に彼女達に向けられていることに少しばかり心が痛まなくもなかったが、しかし、彼女達には怒られるだけの正当な理由があった。 「で、どうしてこんな嘘を吐いたんだ」 あぅぅと涙ぐむポポに、僕は容赦なく言う。 「や、やどりがそうしようって言ったです! だって、そうするしかなかったんです!」 やどりさんが何か言おうとしたけど、僕はそれを遮って話を促す。 「そうするしかなかったってどういうことだよ」 「だって、喧嘩して、部屋を滅茶苦茶にして、相手に大怪我させたなんて言えないです……」 確かに、その通りに証言すれば、問題になるのは避けられない。 「だからって、誤魔化していい問題じゃないだろ!」 「ゴールドだって、いつもそうしてるじゃないですか!」 うぐっ! ポポの言葉が僕の胸に突き刺さる。 普段の僕はそういう意図で物事を大事にならないようにしていたわけじゃないんだけど、そうか、ポポにはそう見えていたのか。 17 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 38 06 ID o9Rjb4dh 「つまり、誤魔化そうって発案したのはポポなのか」 「そ、それは……」 言いよどんだのは肯定の代わりと思っていいだろう。 親の背中を見て子は育つという。 つまりポポは僕の普段の行動から学んだ結果、事件になるのを避けようとして、それにやどりさんが知恵を貸したということか。 ははははは。笑えない。 つまりなんだ、結局責任は僕にあるってことなのか? 「それに、これは証明」 真実が暴かれたので、弁明の必要がなくなったやどりさんが口を開いた。 「証明って何の?」 「ゴールドのためなら、私は罪を厭わないことの」 「なっ……」 言葉が出なかった。 ポポの、「ぽ、ポポもです!」という言葉が遠くに聞こえる。 僕はひょっとして、とんでもない場所にいるんじゃないだろうか。 僕の信用を得るためだけに人一人を殺しかけた。 さらに全ての罪をその無実の……無実のというのは言いすぎかもしれないけど、とにかく、その被害者に着せようとしている。 そしてそんな行為をなんとも思わない、強大な戦闘力を持つ者がこの狭い部屋に二人もいるのだ。 ロケット団のアジトだって、もう少し空間辺りの危険人物密度は低い気がする。 僕はどうするべきなんだろうか。 二人に対して、懇々と説教しても、それが効果あるとはとても思えない。 ならしかるべき機関や人物に訴えるか? いや、ダメだ。そんなことになれば二人ともただじゃ済まない。 僕は二人を罰したいんじゃなくて助けたいんだ。そんなことは本末転倒だ。 それに、警察は物事を混迷させるばかりで、よい方向に運ぶことはない。 僕はシルバーのときのことのせいで、根本的に警察不信なのだ。 それに、この状況は僕にとって必ずしも不都合ではない。むしろ好都合なくらいだ。 二人を僕の共犯者に仕立て上げる。 もちろんそのことに抵抗がないとは言わないけど、僕にはそれが最良の方法のように思えた。 むしろ、共犯者にすることが彼女達の危険な行動の抑止にも働くはずだ。 溜息を一つ吐いた後、意を決して僕は話し始めた。 「二人の気持ちはよく分かった。だから言うよ。最後まで落ち着いて聞いて欲しい。僕は、一人の友人を救うために、一人の元友人を殺すつもりなんだ」 少し気取った言い回しだと思う。 でも、咄嗟に出た言葉がこれだった。 僕は今まで、シルバーが自分の友人だったことを否定していたのだと思う。 どこか、彼を直視したくない気持ちがあった。 しかし、自分の殺意を告白することが、かえって僕を冷静にした。 口に出した以上、後戻りは出来ない。 僕は、昔からずっとシルバーを恨んでいた。それも、殺してやりたいくらいに。 ランの父親を殺し、僕やランの幸せな生活を奪ったシルバー。そのとき僕が感じた無力感。 僕はシルバーが、何よりも何も出来なかった自分が許せなかった。 だから、僕は僕の手でシルバーを裁く。 ずっとそう思っていた。 時間の経過とともにその感情は冷め、火はすっかり消えたと思っていた。 ところが、それはただ灰に埋もれて隠れていただけだったらしい。 再びシルバーにあったとき。 僕の中にあったその燠火が再び激しく燃え上がった。 僕はもう、この気持ちを無視することは出来なかった。 今度こそ、シルバーに罰を与える。 そしてランを助け出す。 もちろん、ポポややどりさんには関係のない話だ。 だから二人を巻き込むことに抵抗がないとは言わない。 それにいくらシルバーが悪人だからと言って、殺せば人殺しだ。なんらかの罪に問われる可能性は高い。 18 :ぽけもん 黒 20話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/05(月) 12 39 11 ID o9Rjb4dh だけど、僕は。 親を殺し、その娘を洗脳して悪の手先として利用する。 こんな非道が他にあるだろうか。 仮に逮捕されたところで、事件当時の年齢を省みると、何か他の事件でも立件できない限り、死刑なんて到底望めない。 更生の余地だのなんだの言って大した刑にならないに決まってる。 あのシルバーに更生の余地なんてあるわけがない。 善良な心を持っていれば、最初からこんな悪事を働くわけがないじゃないか。 僕はシルバーを許せない。 「初めに言っておく。僕は決して殺人を肯定するわけじゃない。裁いていいのは法であってお前じゃないって何も知らない人たちは言うと思う。 けれど、この十年、警察は何も出来なかった。でも、僕達なら出来る。なら、僕達がシルバーを殺し、一人の女の子を救うことは正しいことだと、僕は思う。 だから、この一度だけ、僕に力を貸して欲しい。……こんなことに巻き込んでおいてなんだけど、君達には出来るだけ迷惑をかけないように努力するよ」 彼女達は黙って僕の口上を聞いていた。 「もし警察に訴えるなら今だ。今なら君達は余計なリスクを負わなくてすむ」 ポポはくすりと、柔らかな笑みを作った。 そして、幸せそうに言う。 「ゴールド。ポポの答えは最初から決まってるです。ポポは……」 ポポがそこまで言いかけたところで、言葉を奪うようにやどりさんが割って入った。 「……私のすべては、あなたの望みのままに」 そうして、僕に傅くように、僕の前に跪いた。 隣のポポは信じられないと言った様子だ。今にも悲鳴が聞こえてきそうだ。 「……っ!! 大事なところで割り込むなです! 折角ポポが……」 やどりさんに食って掛かるポポのギャアギャアという声の裏で。 卑怯者。あなたはそれで満足? 僕は香草さんの罵りの声を聞いた気がした。 僕が計画を打ち明ければ、彼女達は僕に従う。 そんなことは最初から分かっていたんじゃないか? 分かっていたからこそ、彼女達に打ち明けたんじゃないか? そんな声が僕の脳内に木霊する。 分かっていて、それでも良心の呵責も背負えない、卑怯者の僕は、あえて僕が強要するんじゃなく、彼女達に選ばせる形式を取った。 自分の罪悪感を誤魔化す、ただそれだけのために。 彼女達を引きずり込んだ。 彼女達に、背負わなくていい罪を背負わせるために。 卑怯者。 僕はそんな声々から耳を背け、二人にこれからの計画を話した。 大雑把に言えばこうだ。 ロケット団は再結成した。 つまり、このまま旅を続けていれば、いつかロケット団の情報が舞い込んでくるだろう。 今までのことから言っても、そこにシルバーもいる可能性は高い。 だから、僕達は今までどおり旅を続ければいい。 もちろん、絶対に騒ぎを起こしてはダメだ。 そのときが来るまで、できるだけおとなしくしているべきだ。 同時に、僕は君達が殿堂入り出来るように全力を尽くす。 シルバーに会えなければそのまま殿堂入り出来るように。 そうなった場合は、僕はメディアを通して大々的にシルバーの非道を訴えることが出来る。 世論が動けば、警察も優先して動かざるを得ない。厳罰を科さざるを得ない。 そうなれば、彼女達は人殺しなんて誹りなんかとは無縁の、保障された素晴らしい生活が送れることだろう。 僕がつまらない意地を通さなければ、これ以外の選択なんかあるはずもないのだけれど。 だけど、僕は……。 そうして、僕達はこの街を後にした。 あ、古賀根ジムは秒殺で勝ちました。 古賀根ジムは相手方のおっぱいがすごくおっぱいなこと以外、特筆すべきことはなかったです。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2067.html
545 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 3 投稿日:2011/01/28(金) 21 39 04 ID fH6PdWU3 「結婚、ですか?」 「はい」 「僕が?」 「はい」 「誰と?」 「我が国の姫、私の娘とです」 「あの、僕子持ちなんですけど」 「存じております」 「会ったこともない人と、突然結婚というのはどうかと」 「我ら人間と、あなた方魔族の共存のためです」 「でも、そのお姫様も嫌がるんじゃないかな」 「それが、魔王様の評判を聞く限り、とても乗り気なのです」 「は~……こう言うのもなんですけど、物好きな方もいるんですね」 出張先の砦で待っていたのは、この砦の防衛部隊長のマグマシャーク それと、とある人間の王国を統治しているという王、ライフレット・シャルルノージュ・レイルトロン・セリク(通称セリク王)だった マグマシャークは彼のの知り合いらしく、部下の指導をエレキインセクトに丁重に頼むと、僕は背を押されて個室に連れ込まれてしまった 元々人間の中にも魔族と懇意にしている者がいるって話は聞いてたけど、まさかいきなりこんな話になるとはね 思ってもみなかったよ、ほんと 「これ、政略結婚ってことですよね」 「はい。しかし、これは必要なことなのです」 「と言うと?」 「恐れながら魔王様、と言うよりも先ほどお会いしたエレキインセクト様は、あの大国を解体される原因をお作りになりました」 「……ええ」 部下のエレキインセクトにまで様付けするような丁寧な口調ながら、そこにほんの僅かこめられた苦味を感じる 「そのせいで、我々の主義主張は真っ二つに別れてしまったのです 我らのまとめ役であった王を殺した魔族に徹底抗戦を主張する者と 温厚で戦いを好まないという噂の魔王様に対し、我々のように共存を申し出る者です」 「待ってください。まとめ役、とはどういうことでしょうか? 貴方も王なのでは?」 そう言うと、彼は苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるように言った 546 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 3 投稿日:2011/01/28(金) 21 39 28 ID fH6PdWU3 「……私の国を含め、奴の領地のほとんどは軍事力で奪い取った植民地なのです 私の民も重税を課せられ、飢えで死ぬものまで現われました ですからあの暴君が魔物との戦いで殺されたと聞いたとき、我々は開放の喜びからカーニバルを開いたほどです しかし隷属国ではなく、もともとあの家に仕えていた軍人どもは今も魔物への復讐心に燃えているのです」 「なるほど」 「その勢いを塞き止めたいと我々は常々思っているのですが、我々は人間であり、表立って魔族の側に立ち諌めることは難しいのです 下手をすれば、心情的には味方である他国からも村八分にあってしまう可能性も無いとは言い切れないのです」 「ふーむ」 ヘタに隠し立てをしないで語るところは好感が持てる もっとも、魔族と初めに手を組んだ国としての利権を狙ってなどいない、というほど聖人君子にも見えないけどさ 「けれど、どうして今なんですか? あの戦いからもう八年近く経つんですよ」 「おっしゃるとうりです。しかしその理由に関してはまたもエレキインセクト様が絡んでくるのです 魔王様、ランサザードという家をご存知ですか?」 「ランサザード? ええ~っと……聞いたことがあるような気はするのですけれど……」 「爵位はないものの莫大な資金と広大な領地を抱えており、現在親魔派の筆頭になっている家です 家名を継ぐ唯一の生き残りであるご令嬢はお嫁に出て行き、今現在は前党首の秘書が継いでおります そしてそのご令嬢は、エレキインセクト様の奥様です」 「ああ、ミリルさんでしたか。お恥ずかしい話ですけれども、僕の行う政治の半分くらいはミリルさんに頼っているんですよ」 恥の上塗りみたいな話だけれども、発布は姫に任せている 僕が言うよりもずっとずっと効果があるのだ みんなが纏まっていくのを嬉しく思う反面、僕自身の無力感に悩む今日この頃だ 「そのミリル嬢が魔族、しかも魔王様のお傍近くに使える将軍と懇意になり、ここに魔族と人間の繋がりが強固になったと言っても過言ではありません」 「そして次は魔王である僕自身が人間と婚姻に至れば、名実ともに魔族と人間の同盟関係が確立される、というわけですね」 「はい。我らもあの王国の領土やランサザード家の財力には及びませんが、かなりの国力を持っていると自負しております この婚姻が成れば、きっと人間と魔族がともに手を取り合って生きていけることでしょう」 それは素晴らしい とは思っても口にしない こんな席でそんなことを言えば、そのままこの場で婚姻が成ったということにされかねないし いちおう僕が魔族のトップなんだから政略結婚っていうものは世の常なのかもしれないし、別に不満があるわけじゃない ………もちろん、気立てが良くてかわいい娘だったらいいな なんて贅沢なこと考えたりもしちゃうけど でもそれ以前に、僕には家族がたくさんいるんだ 地方に散らばった者。産業に従事する者。畑仕事に精を出す者。戦いに備える者。僕を守ってくれる者 全ての魔族は僕の仲間であり、家族なんだ。彼らに報告もなしに勝手に婚姻なんて考えられない それに、一番報告しなければならない愛娘 何も言わず勝手に[お母さんができたよ!]なんて言えるわけもない 姫、賛成してくれるかなぁ もしもそうなったら、もう少し距離を置かなきゃ駄目かも ちょっと寂しいけど、年頃の娘のそばにお父さんがいつもくっついてるわけにもいかないしね 547 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 3 投稿日:2011/01/28(金) 21 41 48 ID fH6PdWU3 「お話はよく分かりましたし、賛成です。しかし私も魔王として、独断で事を運ぶわけにはいきません」 「ごもっともです」 「ですので今日はこの辺にして、後日もう一度会談の席を設けるということでどうでしょうか」 「わかりました。それでは、娘を連れてきます」 「え?」 話、繋がってなくない? 「会談がいつになるかは別としても、顔見せもせずにいるというわけにはいきませんぞ」 「ああ、なるほど」 「それに、エリスに魔王城に連れて行っていただかなければなりませんので」 「はい?」 やっぱり、話繋がってないよ 「ああ、まだ言ってはおりませんでしたな。ライフレット・シャルルノージュ・レイルトロン・エリス。18歳。私の娘です」 「僕の娘と二つしか違わないんですか……いえ、そうではなくて。連れて行くって、何のお話ですか?」 「魔王様、先ほどの婚姻に賛成していただいたということは、そういうことなのです」 「え、いや、あの」 「マグマシャークさん、エリスを連れてきてください」 「わかった。魔王様、おめでとうございます」 「その、えーっと、ちょっと」 「魔王様、今日は我々の共存の道を歩む記念すべき日になりますぞ」 「…………」 「私はこれで退散いたしますが、娘をよろしくお願いいたします。それでは」 「どうよろしくすればいいのか分かりません」 ああ、まだ娘さんが来てないのに行っちゃった 気が弱くて口下手な自分を恨むよ 僕は次にしようって言ったじゃない。マグマシャークも気づいてよ、ほんと でも、どんな娘かなぁ………じゃなくて 「魔王様、奥さんを連れてきました」 「いや、まだ違うからね」 「……………………」 黒い髪のセミロング 体系は姫とおんなじくらい……まぁ、察して知るべしだよ マグマシャークの手を取ってついて来た女の子は、目を閉じていた やっぱり魔物が怖いのかな? と思ったけれど、そうじゃないみたい 逆の手には使い続けてきたような年季の入った杖 そうか、この娘目が見えないんだ 548 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 3 投稿日:2011/01/28(金) 21 42 24 ID fH6PdWU3 「…………」 僕に向かって深々とお辞儀 かわいい、年齢よりも幼く見える笑顔を僕に向けてくれているけれども、硬い あきらかに作った表情なのが分かる 「怖がっています。彼の言うように、婚姻を喜んでいると言うわけではないみたいですね」 「こらっ! そんなこと本人の前で」 「魔王様、エリスちゃんは目が見えないのと合わせて、耳も聞こえないんですよ」 「……………」 たしかに、目を閉じたまま表情を崩さないところからして変だ 怯えながら暗闇の世界で耐えているんだろう 「彼は点字を使って伝えてたけど、目も見えないんで教えるのが大変だったって聞きました けれども彼にはエリスちゃんしか子供がいないし、政略結婚を申し込むならこの娘しかいないんですよ」 「…………」 「……ねえ、この娘の目と耳は生まれつき? それとも後天的なもの?」 「ええ~っと、たしか耳は生まれつきですけど、目は子供の頃に高熱を発して光を失ったって言ってましたよ」 「そっか。それならきっとどうにかなる」 「へ?」 目を丸くするマグマシャーク。硬い表情で笑顔を崩さないエリスちゃん いや、君はもういいから 肩を軽く掴んで座らせてあげようと思ったけれども、軽く触れた瞬間に、怯えてビクッと震えられてしまった 「怯えてますね」 「うん。でもきっとこの眼は治せるよ。エレキインセクトとスカルエンペラーが最近協力して良い蟲ができたんだ」 回復魔法のエキスパートであるスカルエンペラーが、エレキインセクトにもらった超微細蟲を使ってできた治療法 スカルエンペラーが教育したアリの触角よりも小さい蟲を体に入れ、巡回させることで悪い部分を癒す蟲 外傷や死人を治すといったことはとてもとても手は届かないけど、内傷や失われた器官の回復には劇的な効果を発するという報告が出てる もっとも、まだ動物実験の段階だけれど 「マグマシャーク、エレキインセクトを連れてきて。この娘を連れて城に戻るよ」 「分かりました。それで、披露宴はいつですか?」 「だからまだそういう段階じゃないんだってば」 549 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 3 投稿日:2011/01/28(金) 21 43 25 ID fH6PdWU3 「なあ魔王、マジか?」 「? なにが?」 「……いや、わかんねえならそれでもいいんだが」 エリスちゃんと僕を背中に乗せて、人間よりも一回り以上大きなカブト虫の姿をとったエレキインセクトが飛ぶ 僕の結婚というのは寝耳に水だったみたいでマグマシャークの頭を殴りつけてたけどね それでもエリスちゃんを怯えさせないように振動を起こさないようにゆっくり飛んでいるのを感じると、エレキインセクトも変わったと思う もともと[唯我独尊]が座右の銘だったのに、姫やミリルさんの影響かな 「結婚なんて俺は反対だぞ。姫ちゃんはどうなる」 「僕もまだ結婚なんて考えてないよ。姫だっていきなりお母さんができましたなんて言われてもきっと困惑しちゃうしさ」 「そういう問題じゃねぇ。姫ちゃんはあんたのことが好きなんだぞ」 「嬉しいこと言ってくれるね。でも、姫もそろそろ父離れしなきゃいけない年頃だよ」 「だからそういう問題じゃなくてだな……ああもう、どう言ったもんかわかんねえよチクショウ」 「?」 「…………(ガクガク)」 「だいたいなんでその娘連れてくんだ。すげえ怯えてる上に、姫ちゃんにもんのすげぇ怒られんぞ」 「だって、新しくできた巡治蟲を使ってみたいって言ってたじゃない。結婚云々は置いとくとして、治せるものは治してあげたいんだ」 「……はぁ。先代だったらその場で殺ってたぜ。親子でなんでこうも性格が違うかね」 「父も家では優しかったよ」 「……(ガクガク)」 必死でエレキインセクトの背中にへばりつくエリスちゃん 空を飛んでいるっていうことは風を感じて分かると思うけれど、この震えは尋常じゃない ずっと怯えてるんだ 「ちょっと、ごめんね」 「……!?」 体を起こして、後ろから抱きつくようにして体を固定させ そのまま、ちょっと失礼かなと思いながらも子供をあやすように背中を優しくポンポンと叩いてあげる 姫はこうしてあげると落ち着くって言ってたから、少しでも気持ちが緩和されるといいんだけど 「………(ぎゅっ)」 「よしよし」 すると、僕のシャツの裾を掴んで体を預けてくれた よかった、害意は無いって分かってくれたんだ 「魔王、連れて行くのは手伝う。巡治蟲で眼の治療に当たるのも手伝う。しかし姫ちゃんに説明すんのは自分でやれ。絶対だ」 「うん。そのつもりだけど……なんで?」 「うるせえ、俺が何でこんなに念を押してんだか帰ったら分かる。嫌ってほどな」 「???」 冷たい風が止みはじめた頃、首をかしげる僕の腕の中で、エリスちゃんは小さく寝息を立て始めていた
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1251.html
785 :狂っているのは誰? [sage] :2009/05/20(水) 15 57 47 ID 1JuYGTjx 「娘を探していただきたいのです」 それが、しがない探偵である私への依頼内容だった。 差し出された写真には、綺麗な黒髪の美少女が写っていた。 名前は小野田春香。今年高校生になったばかりだという。 依頼してきた両親は、年の差が20もあり、二人で建設会社と営んでいるという肩書きをもち、 その印象といえば、父親の方は社長という肩書きには似つかわしくない頼りない感じの髪の薄い初老で、 娘がいなくなったことでかなり動揺しているのか、 その不安げな表情がまた頼りない感じに拍車をかけていた。 それとは、逆に母親の方は凛とした表情が似合う若々しい美女だった。 気品が漂うクールなキャリアウーマンといった印象で、 娘がいなくなったことにも冷静に対応し、私の娘に関する質問にもすべて母親が答えていた。 「娘さんがいなくなってどれぐらいたちますか?」 「一ヶ月ほどです。家出することは何度かありましたが、 これほどまで長い期間はありませんでした。」 「警察には届けを出しましたか?」 「いいえ、私どもの勝手な都合ですが、 経営している会社のイメージや従業員の目もありますので、 この件は穏便に済ましたいと思っています。 ですから、探偵さんもこの事はできるだけ内密にお願いします。 その分の報酬を用意させていただきますので」 まるで、ビジネストークのような口ぶりの母親に、少々面食らいながらも、 私はこの依頼を受けることにした。 誘拐などの可能性もなくはないが、身代金の要求などがないことからみて、 ただの家出騒動で終わるだろうとタカをくくっていたし、 提示された報酬も魅力的な額だった。しかし、一番の理由は、 この「小野田春香」という少女に、 10年前に別れた妻に引き取られた当時6歳の私の娘の面影が浮かんだせいだろう。 だが、この安請け合いが後悔に変わることを、その時の私は知る由もなかった。 786 :狂っているのは誰? [sage] :2009/05/20(水) 16 06 49 ID 1JuYGTjx 小野田春香の年齢から見て、この手の家出の原因といえば、 思春期にありがちな親への反抗。 もしくは学校でのいじめや進路の問題。 あと考えられるは金か男か?そんな思考を巡らしながら、 依頼主である両親が、参考になればと置いていた娘のアルバムやスケジュール帳に目を通していた。 アルバムは幼少のころからごく最近のものまであり、「小野田春香」の成長の過程が刻まれていた。 しかし、ところどころのページには貼ってあった写真を抜き取ったあとがあり、 その抜き取られたであろう写真の共通点は安易に想像ができた。 このアルバムには娘と父親が一緒に写っている写真が一枚もないのだ。 きっとこれが家出の原因の一つなのだろう。 父親への嫌悪感。年頃の娘ならだれしもがもつ感情だ。 そういえば、両親と面会したあの日、去り際に父親がヘラヘラした苦笑いを浮かべた表情で 「娘がいなくなったのは私のせいかもしれません。私に対する感情が異常なんですあの子は・・・このころはあんなに素直だったのに・・・」 とアルバムの最後のページに貼られた、おそらく「小野田春香」が子供の時にかいたであろう父親の顔と 「将来の夢はパパのお嫁さんになること」という文字を見つめ語っていた。 異常なのは父親を理解できない娘なのか、それとも娘を理解できない父親なのか? それを判断するのは私の仕事ではない。 しかし、同じ親という立場ならどうだろう? 机の上にかざってある幼き日の自分の娘の写真を見ても、 その答えは返ってこなかった。 787 :狂っているのは誰? [sage] :2009/05/20(水) 16 22 05 ID 1JuYGTjx この町は狭いようで広い。 この町を、いやこの町にいるさえわからない「小野田春香」を私一人で人探しなど途方もなく骨の折れる作業だ。 手がかりは彼女のスケジュール帳に登場してくる人物に手当たりしだいに調べて回ることぐらいしか私には思いつかなかった。 彼女のスケジュール帳に登場してくると思わしき人物は大きく分けて4人。 「父」「母」「友美」そして、最後が「F」という人物だった。 私は「F」という英語で書かれた人物が気になったが、名前がはっきりしている「友美」という人物に目をつけ、調べを続けた。 その結果、「友美」とういう人物は「小野田春香」のクラスメイトの「坂上友美」である事が比較的簡単に調べることができた。 私は彼女の高校に張り付き、下校途中の彼女に狙いをつけ「警察の方からきたものですが・・・」という使い古された言い回しで、 コンタクトをとり、「小野田春香」さんについて話が聞きたいと、カフェに誘導ことに成功した。 「ハルちゃん、ずっと学校きてなくて心配していたんですぅ。もしかしてなにかの事件に巻き込まれたんですかぁ~?」 舌足らずな物言いで坂上友美は心配そうに、その大きな瞳をウルウルさせながら、私に質問を投げてくる。 坂上友美の印象は、まさに今時の女子高校生といった感じで、薄い顔に濃い化粧をして、そのふくよかと表現するには、 軽すぎる太い足を組みかえながら私を見つめている。 「今、それを調べているところなんだ。一番最近、彼女にあったのはいつごろ?」 「えっーと、確か。あの病院いった帰りだからぁ~一ヶ月前ぐらいかな?」 「その時、彼女に変わったところはなかったかい?」 「えー?一ヶ月も前のことなんか覚えてないよー」 「そうか、じゃあ、この彼女のスケジュール帳に書いてある「F」って誰のことかわかる?」 「あ~それはね・・・おじさん、これ内緒だよ?「F」はハルちゃんの彼氏の藤原太志君!」 「藤原太志君・・・「F」。藤原君って君達と同じ学校?連絡とかとれる?」 「友美とハルちゃんと太志君は中学のツレなんだー。携番は知ってるけど、今は無理!」 「無理?どうしてだい?」 「太志君、今、第一病院に入院してるから」 「入院!?どうしてだい?」 「さぁー知らない。自分で調べれば?警察なんでしょ?おじさん」 「あはは、それもそうだね。ありがとう。参考になったよ。あっこれ、おじさんのケーバン。なにかわかったらここに電話してくれないかな?」 「まじ?警察の携番GETだぜー!私、助手やりたいー」 「あはは、高校卒業したら考えてもいいけどね。それじゃあ、頼んだよ」 そういって、彼女のカプチーノ代より大目の金額をテーブルに置けば、私は藤原太志が入院しているという病院にいくために席を立った。 外から店の中の坂上友美を見れば、楽しそうに携帯を取り出ししゃべっているが見えた。 788 :狂っているのは誰? [sage] :2009/05/20(水) 17 36 37 ID 1JuYGTjx 坂上友美から得た情報。 スケジュール帳の「F」なる人物が入院している第一病院。 その「F」こと藤原太志は、この病院の外科病棟に入院していた。 彼にくだされた診断結果は、右足首の腱の断裂。 あともう少しで歩けなくなる一歩手前だったらしい。 原因は本人曰く「家の雑草を鎌で除草していた際に誤って足首に刃が当たってしまった」らしいとのことだった。 そんな下調べを入院患者や看護師相手に病院内でおこなったのち、 私は彼の病室を訪ねてみた。 坂上友美にもつかったように、「警察の方からきたものですが・・・」という言葉と共に。 しかし、右足が吊られた彼は私の言葉に反応もせずに、 雑誌のクロスワードパズルをただ無表情に黙々と解いていた。 そんな彼の横に座り、私は静に言葉を続けた。 「藤原太志君だね?少し聞きたいことがあるんだ。小野田春香さん知っているね?」 彼は答えない 「実は彼女、ご両親のもとからいなくなっちゃたんだ。なにか知ってることないかな?」 彼は答えない 「これ彼女のスケジュール帳なんだけど、この「F」って君のことだよね? だいたいどの月も一週間に3回は君の名前がついているんだけど、 これってなんの日なんだい?デートした日とか?彼女なんだろ?春香さんは・・・」 彼は答えない。 私はしびれを切らし、彼のために買ったフルーツの詰め合わせをベッド脇に置き 「なんか悪い事きいちゃったかな?・・・あっ、これお見舞い。怪我早くなおるといいね。お大事に・・・」 そういって席を立とうすると、 徐に彼が私に先ほどのクロスワードパズルの雑誌を差し出してきた。 「なんだいこれ?」 彼が問題を解いていたページを見れば、そこには6マスのパズルのマスに「Fは僕じゃない」 そして、5マスのパズルのマスに「ビデオ見て」と書かれていた。 そして、彼のベッドの布団の隙間からビデオテープが私の手に渡される。 その表情は先ほどの無表情とは違うなにかに怯えた表情だ。 彼の行動からこの部屋が誰かに監視されているのは容易にわかったが、 ここはあえて彼の演技に合わせることが今できる私の務めだろう。 「それじゃあ、私は行くよ。お大事に。またなにか気がついたことがあればここに電話してくれ」と、 自分の携帯番号をテーブルの上に置き、私は彼を心配しつつも病室を後にした。 渡した己の携帯電話の番号が彼への助け舟になることを祈りながら、 最後にみた彼の表情は微かに笑っていた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/719.html
102 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 10 51 01 ID d5beOcdA ----- 第十話~忘れていたこと~ ・ ・ ・ 頭がくらくらする。 たった今眠りから覚めたけれど目を開ける気にならない。 今の俺にとっては目を開けるだけでもかなりの重労働だ。 頭の中を酸性の液体で溶かされてしまったようにぼろぼろになった気分。 二日酔いと似ているが、吐き気を催さないだけまだマシではある。 ぐるぐると思考がまわっている。落ち着かない。 そもそも、何でこんな状態になっているんだ? 俺はただ華と一緒にパーティへやってきて、十本松となんの得にもなりそうにないやりとりをして、 かなこさんに自室に誘われて、それから―― 『……忘れた振りをなさっているならば……許しませぬ………』 『あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』 『わたくしのことを忘れるなど……許しては置けませぬ!』 ――そうだった。 激怒したかなこさんに襲われて、その後で何故か眠ってしまったんだ。 あの時の彼女の様子は俺を食い殺さんばかりの勢いだった。 無防備に眠ってしまった俺は格好の餌食だったはず。 眠ったまま殺されていてもおかしくない。 それなのに、何故俺は生きているんだ? もしかして既に死んでしまっていて、今いるところが死後の世界だとか? いや、それはないな。死後の世界なんてあるわけがない。 心臓停止、もしくは脳死をおこせば人間はただの肉塊になるだけ。 そうなったら、人生は終わりだ。 コンティニューなんてものはありはしない。 『その後、彼が再び立ち上がることはなかった……』みたいなテロップが表示されて、 エンドロールが流れておしまいだ。 しかし、こうやって自分の意識を保っているということは、まだ死んではいないということだろう。 死んでいないだけで、かろうじて生きているだけの状態かもしれないけど。 ようやく思考も落ち着いてきた。 まぶたを開けるくらいの余力もでてきた。 ゆっくりまぶたを開く。そこには、間近で俺を見つめる女性が居た。 104 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 10 53 19 ID d5beOcdA かなこさんの顔が、目と鼻の先の位置にある。 ため息を吐けばその微風を感じ取れる距離。そこに思わず目を奪われてしまう美しい顔がある。 その顔はしきりに俺の顔の前で左右に、上下に動いていた。 潤んだ瞳には歓喜が宿っているように見える。 どうしてそんな瞳をしているのか、という俺の疑問は、自分の唇に触れる柔らかな感触と、 口内を這いずり回るやわい感触の何かと、ぴちゃぴちゃという水音を感じるうちに解けた。 「んん……んふ、……ふん…ちゅ……」 かなこさんが俺にキスをしていた。 それも唇に触れるようなものではなく、口内の液体を絡ませ、吸い取るような激しいものだった。 時折かなこさんの髪が俺の顔に垂れてくると、彼女はそれをうっとおしそうにはらう。 彼女は目を瞑ると、唇を強く押し付けて深く舌を挿入してきた。 蜂蜜が垂れていくようなゆったりとした動きで、かなこさんの舌が動き回る。 衝撃的な光景にとらわれていた俺は、その舌に応えることなどできなかった。 自分の目の前で起こっていることが、とても信じられるものではなかったからだ。 俺が呆然としている間にも口内は蹂躙され続け、かなこさんは俺の首を強く抱きしめた。 抱きしめる力が強くなる。肢体を激しく動かしだした。 その動きが激しさを増し、より強く唇を押し付けられた瞬間、目を開いた彼女と目が合った。 「んんっ……ん! んんんんんっっ!!!」 繋がった唇から、緩やかな振動が伝わってきた。 舌と唇を使い唇をこじ開けられると、口内に液体が入ってきた。 仰向けに寝そべっていた俺は、喉にまで達したその液体を空気と一緒に飲み込んだ。 荒い呼吸をつきながらかなこさんは上体を起こした。 そのとき、俺は今度こそ自分の目を疑った。 彼女のほっそりとした首から肩を通り腕へ伸びるラインを遮るものは一切なく、 さらけ出された肩の白さを邪魔する衣服さえ、目の前の女性は身に着けていなかった。 そして、生まれたままの姿をしているのはかなこさんだけではなかった。 腹筋の辺りに感じるぬめった感触と少しの重量感が肌を直接的に刺激している。 さらに俺の四肢は縄で縛られていて、自由が利かないようにされている。 俺はスーツを脱がされた状態でベッドに固定されていた。 107 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 01 25 ID d5beOcdA 「ようやく目が覚めたのですね。 何度くちづけても反応がなかったものですから、不安になってしまいましたが、 雄志さまと目が合った瞬間にはわたくし、いってしまいましたわ。 キスでこれだけ刺激的ならば……雄志さまと繋がった瞬間にはわたくし、死んでしまうかもしれません」 そう言うと、かなこさんは唇の周囲についた唾液を舐め取った。 「雄志さまの唾液を、たっぷりいただきました。 これだけなめらかなものを口に含んだことなど初めてです。 ほんとうに、どんなものにも勝る甘露ですわ。おいしゅう、ございました」 かなこさんの小さな舌と唇がぴちゃり、という音を立てた。 また顔が近づいてくる。頬に柔らかいものが触れた。 頬にまで垂れ下がった唾液を舐め取ると、舌が首へ向かって移動する。 喉仏を唇で包み込まれ、強く吸われる。たちまちぞくり、としたものが駆け抜ける。 「んちゅ…ああ、首の脈がびくびく、動いて……かわいい……」 舌が首筋を舐め始めた。 顎の舌から、鎖骨へ向かい、また折り返してくる。 「ああ、もう……こんなことって……んん、ふ……」 かなこさんが口付けてきた。 両手で俺の頭を掴み、髪を撫で回しながら舌で攻められる。 息苦しさに首を軽く反らす。 「っ! 雄志さま!」 大声をあげられて、首を正面に固定された。 「もはや、逃げることなどできませぬぞ……。 このまま、わたくしと愛し合い続けるのです。明日になっても、日付が変わっても、ずっと、ずっとずっと。 引き裂かれてから今までの分の肉欲を、わたくしにぶつけたいのでしょう? 欲望を子種に宿して、わたくしの中にそそぎたいのでしょう? 言われなくとも、わかります。先ほどから、雄志さまの肉体が疼いているのがつたわってくるのです」 言われたとおり、俺の体は止めようもないほどに熱くなっていた。 これほどの興奮を味わったことは一度もない。 女性の方から犯されているという異常な状況だというのに。 頭を冷やす材料が、ひとつもなくなっていた。 108 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 02 52 ID d5beOcdA 「さあ、存分に……」 小さな手が、肉棒を掴んだ。 ひやりとした感触が熱におかされたものを包み込む。 目を合わせながら手淫をされる。 絶妙な愛撫だった。射精欲が高まっている状態で施されるそれはたやすく俺の理性を揺さぶる。 数本の指の動きだけで、まるで俺の体を知り尽くしているかのように弱点ばかりをついてくる。 「うふふ。……やはり、ここを触られるのがお好きなのですね。 もちろん、覚えておりますよ。雄志さまのお体のことは。 そして、こうされるよりも――」 かなこさんは手淫をやめると腰の上に座った。 秘裂をぴたりと陰茎に合わせて体を揺する。 「わたくしの膣の中で果てることが一番お好きだということも」 その言葉の後でかなこさんの腰が離れて、陰茎が開放された。 真上を向いたペニスの先端に肉が触れた。 「あ、ああ、あ……ひろがって、る……」 かなこさんの体が俺の肉棒を飲み込み始めた。 まだ半ばまでしか達していないというのに、膣壁が強く張り付いているように感じる。 そのときになって、本当の意味で自分が犯されている、ということがわかった。 俺の感覚が全て肉棒に集中して、そこから全て吸い取られている。 「もう、すぐ…雄志さまがわたくしのものに、ぃ……あ、ぁはああああ…… あ、あああ! イ……って、しまっ、……ふっ……ぁぁあああああああ!!!」 彼女の膣が俺自身を全て飲み込んだ瞬間に締め付けられ、より強く絞り取られる。 激しく痙攣する彼女の体は、耐えようとする力さえも奪い取ろうとする。 理性を飲み込む快楽が俺の脳を支配したとき、肉棒から精液が飛び出した。 腰がびくびくと動き欲望が吐き出される。 脳から電流を断続的に流される。腰の動きが止まらない。 快楽で呼吸するのを忘れ、息苦しさを感じるほどになってから、ようやく腰の痙攣が止まった。 「すご……、もぅ………どこにいる、か……。 ……あ、あ、ぁぁ。 ゆ、しさまぁ……わたくしを、こわして………」 彼女の言葉が耳に届くだけで下半身が力を取り戻した。 それを待っていたかのように、かなこさんは腰を上下に動かしだした。 109 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 03 46 ID d5beOcdA ・ ・ ・ 心臓が全力で血液を送り出している。 腰の上にまたがり、剛直を飲み込んだまま離さず、締め付けてくる女性に応えるように。 何度果てたか覚えていない。5回までは数えられたがそこから先は思考までも侵されてしまった。 「あああ! あ、はぁ、あ! はぁぁぁぁああああっ!」 かなこさんが俺と体を重ねている、という信じられない光景は何度目をこらしても目の前にある。 「雄志さま。そろそろ思い出されましたか……? わたくしのことと、あの頃のことを……」 情事の間を縫う問いかけは空虚なものしか俺にもたらさない。 かなこさんの体以外のものが歪んで見えるのと同様、快感以外に閃くものが頭に無い。 俺が忘れているらしい『なにか』を思い出す兆しなど、まったく見えてこない。 俺が頭をベッドにつけたままにしていると、かなこさんはまたしても体を使い出す。 唇を、胸を、へそを、ペニスを、肛門を、指の間を弄り、無理矢理に俺を勃たせる。 そうして、再度を俺を飲み込み絞り取ろうとする。 俺の体は動かなかった。 筋肉が衰えて、機能が死んでしまったのではないかとさえ思える。 情事の激しさが原因になったのではなく、気がついたときには既に体の自由がきかなかった。 「そうしてなすがままになっている姿は、本当にかわいいですわ。 あれだけ凛々しい方が、こんなにあられもない姿になっているなんて」 頬と頬を合わせて、胸と胸を合わせて体を摺り寄せる。 隅々まで触り尽くされた体はその行動に対して拒否を示そうとはしない。 むしろそうされることを待ち望んでいたかのように、下半身に血液を集めだす。 「まだ、わたくしが欲しいのですね。もちろん、そのようにいたします。 わたくしの心と体は全て、あなたさまのもの。その代わり、あなたさまの全てもわたくしのものです。 もっと、もっと雄志さまの子種を注いでくださいまし。 そうすれば、必ず雄志さまとわたくしの二人の御子を授かりますわ。 覚えておられますか? 子供は2人欲しいとおっしゃったことを。 わたくしは、2人と言わず5人でも、10人でもよろしいのですよ。遠慮など、なさらなくともよいのです」 肉棒を包み込まれて、締め付けられる。 腰を打ち付けられる感触を肌に感じる。卑猥な水音が耳に届く。 それが幾度も繰り返されるうちに、俺の意識は暗く沈んでいった。 110 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 05 18 ID d5beOcdA : : : 意識がつながったとき、俺は教室の中に居た。 そこが教室だとわかったのは、中学時代に飽きるほど目にした光景そのままだったからだ。 窓の外に見える茶色のグラウンドと、色とりどりの花が植えられた花壇。 教室の壁の一部を成す濃い緑色をした黒板。 習字の授業で書かされた、個性的な『努力』の文字たち。 全てが俺の知る中学時代の教室だった。 ただひとつ違うところは、目の前で床にうずくまる少女がいるところだった。 『ひっ……く、ひっく』 その少女のセミロングの髪は微かな茶色に染まっている。 中学時代に茶色の髪をしていた少女は思いつくかぎり一人しかいない。 『香織ちゃん、大丈夫?!』 別の女の子がやってきて嗚咽を繰り返す少女の肩に手を置いた。 泣いている女の子は、中学で初めてできた友人の天野香織だった。 俺――夢の中の――は立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。 こうやって傍観者の立場になると自己分析ができる。 自分が泣かせてしまった少女に対してかけるべき言葉を、当時の俺の頭ではひねりだすことができなかった。 なぜ泣かせてしまったのか、今の俺には咄嗟に思い出せなかった。 だが、香織の足元に転がる銀色の硬貨を見ているうちに、自責の念と共にその理由を深いところから掘り出せた。 それと同時にこれだけ重要なことを忘れていた自分を殴りたい衝動に駆られた。 俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった。それが香織が泣いている理由だ。 なぜそんなことをしたのかはわからない。多分、何かのゲームをしていたのではないだろうか。 熱中しているうちに周りが見えなくなり、俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった、 というのが事態のあらすじだろう。 女の子の顔に怪我を負わせてしまったということ。 中学時代の無知な俺では深く理解できなかったが、今ならわかる。 俺は、香織の人生にヒビを入れてしまったのだ。 111 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 07 31 ID d5beOcdA 事件の翌日、香織は額にガーゼをつけて登校した。 普段は笑顔を張り付かせている顔は、そのガーゼのせいで酷く痛々しく見えた。 休み時間、俺は香織と二人きりになって土下座して謝った。 香織は「そこまでしなくていいよ」と言ってくれたが、俺は顔を上げなかった。 そうしているうちに香織が泣き出した。 「やめてよ……そんなことしないで。 雄志くんは悪くないって、運が悪かったんだってボクは思っているから……だから、頭を上げて」 それでも俺は顔を上げなかった。いや、上げられなかった。 取り返しのつかないことをしてしまった恐怖にかられ、情けなくも泣いていたからだ。 そんなことをしているうちに、泣き止んだ香織が俺に向かってこう言った。 「わかった。じゃあ、こうしよう。 本当に悪いと思っているんだったら、責任をとって。 もしかしたらお嫁さんにいけないかもしれないからさ、だから…その、えっと……。 そ、その先は言わなくてもわかるよね。じゃあ、そういうことで!」 と言い残すと、香織はきびすを返してその場から立ち去った。 取り残された俺――中学時代の――は香織の言葉を変な方向に解釈していた。 『責任』の部分に強く反応し、香織に対してより申し訳ない気分になっていた。 そのせいで、教室に戻ってから香織と距離をとるという行動をし始めた。 今だから言えるが、中学時代の俺は馬鹿だ。それもどうしようもないほどの。 さっきの言葉はいわゆるプロポーズだろう。 それを変な方向に解釈して、距離をとろうとするとは。今すぐ修正を施してやりたい。 まあ、数時間前の俺も馬鹿だけどな。こんな重大な出来事を忘れていたんだから。 今度香織に会ったらあの時の話をさりげなく振ってみよう。 いや、結婚の申し込みをするわけじゃないぞ。香織の方も忘れているかもしれないしな。 もし覚えているんだとしたらどうしようかとも思うが……それはそのときに考えよう。 しかしこの夢は長いな。一体いつまで続くんだ――? : : : 112 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11 10 08 ID d5beOcdA 突然に、唇の感覚が復活した。口の中に舌が入れられる。 もしかして夢の続きか?事件のことを忘れていた罰として俺をどうにかしようというのだろうか。 そうだとしたら、今まで事件のことを忘れていた謝罪を兼ねて、夢の中の香織に応えてやらねばなるまい。 夢の中だけだぞ。現実で香織がキスを迫ってきたらやらないはずだ。多分。 突き出された舌裏を舐める。すると、合わされている唇が強く押し付けられた。 夢の中だというのにこの感触。いつもどおり不気味にリアルだ。 口の中に唾液が入ってきていることまで感じられる。 続けて頬の裏側、唇の裏、歯茎の裏へと舌を這わせる。 俺の舌が舐める場所を変えるたびに唇だけでなく、体の上にある香織の体も動く。 視界が闇に包まれていて相手が香織だとは断言できないが、多分そうなんだろう。 「あふっ……はっ、うぅぅん………ゆうしさま、だめぇ……」 おい。こんなことしてるからって雄志様はないだろう。 だいたい雄志様って呼ぶ人の枠は既にかなこさんで――――え? 「ああ……ああぁあ…んんんんんっ! ぷぁ………もう、こわれてしまいます……雄志、さ、ま……」 目を開けたとき、そこにはかなこさんがいた。 彼女は目を閉じ体を横に傾けると、体をベッドに投げ出して寝息を立て始めた。 なんだ、香織じゃなかったのか。ちょっと残念――って、そうじゃない! かなこさんの体を確認する。 彼女は生まれたままの姿で全身に汗を掻いていて、ところどころに白い液体を付着させている。 それらから導き出される答えは、ひとつしかない。 (俺がかなこさんとセックスしていたのは、夢じゃなかったのか) セックスというよりは逆レイプだったが、体を重ねたことに違いは無い。 そして俺が両手足の首を縛られて固定されているのも変わりない。 かなこさんがこんなことをした理由など、倦怠感に包まれている今の脳みそでも思いつく。 かなこさんは俺のことを好きだからこんなことをしたのだ。 考えてみれば、出会った日に料亭に連れ込んだり、自室に呼んだりという行動は 好きでもない男に対してするものではない。逆レイプは恋人に対してすらやるようなものではないが。 自分の馬鹿さ加減にあきれ果てて、壁に頭を打ち付けたくなってきた。 気づいていれば何らかの対処ができたのに。 もう一つ、疑問があった。なぜかなこさんは俺に惚れたのだ? 俺は名のある家の生まれではないし、親戚に大富豪がいたりもしない。 容姿の良し悪しを自分では判断できないが、少なくとも一目ぼれされるほどいいようには思わない。 考えられそうな要素と言えば、かなこさんが探していた本の場所を俺が教えた、ということだけだ。 俺の疑問に答えてくれそうな人は左で寝息を立てていた。 陽だまりの中で昼寝をする猫のような安らかな表情を浮かべるかなこさんを見ていると、 彼女を起こすという行動をとることができなかった。 体を包み込む倦怠感から眠気を覚えた覚えた俺は、見慣れた顔を思い浮かべた後で目を閉じた。 その時に思い浮かべた香織の顔は、何故か不機嫌真っ盛りだった。 この現状を打破するための方法を考えながら、再び俺の意識は闇の中へと沈んでいった。 ------
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1789.html
73 : 少し大きな本屋さん 2010/08/17(火) 21 17 32 ID wiKAW/bw0 Q 見知らぬ人にメアド交換などを迫られたらどうしますか? A まぁ、普通は断るよな。 でも、ねぇ。 相手は美人さんだったからなぁ。別に関係は無いんだけど。 なーて考えながら本の整理などに勤しむ。 結局、俺は早く仕事に取り掛かりたかったためにメアドを交換した後に「二度と万引きしたらいけませんよー」と覇気のない捨て台詞を吐いて、何か言っていた(多分感謝に言葉)彼女を無視して勢い良く扉を閉めたのだ。 閉める直前に見た彼女の顔は赤みがかかっていたが冬の寒さによるものだろう。今11月だし。 まぁ、結論から言えばなぜメアド交換しようと言ってきたのかとか、悪用されるかもしれないとか、色々深く考えずに交換してしまったためにかなり不安で仕方ない。 はぁぁと深く溜息を吐きながら小説コーナーへ移動する。 にしても一階しかないのに地味に広いよなぁ、うちの本屋。その所為か俺含めて8人も雇っているし。 たしかそのうちの2人ぐらいは返品作業をしてるんだっけかな? まぁどうでもいいけど。 小説コーナーに到着ー。 万引き犯さんが盗み損ねた品二点をあるべき棚に無断で直す。 これで万引きは無かったことになる。はず。 ここら辺の整理もしとくかな。今日はここら辺のコーナーの客少ないみたいだ。 ここからは色々仕事だらけなので割愛。 というかこんなとこ書いても需要がないのである。なんの需要かは知らないけど。 そんなわけで、チョキチョキーと。 74 : 少し大きな本屋さん 2010/08/17(火) 21 18 21 ID wiKAW/bw0 つーかーれーたー。 仕事の後の脱力感が体にひしひしと纏わりついてきて微妙に気持ち悪い。 目を閉じたら立ったまま寝れそうなので我慢せねば。あー、だるい。 「お疲れだねぇ」 隣にいつの間にか若宮さんが立っていた。コエー。 「そうでーすね」 若宮さん(♀)とは俺のバイトの先輩である。といっても年は同じみたいだけど。 情報としてはそれだけだ。未だに名前がわからない。 それでもそれなりに仲が良い。世の中不思議だねぇ。 「相変わらずやる気がないな、それだと早死にしてしまうと昔誰か言ってたぞ」 「別にそれでもいいんだけどねー」 今考えた感まるだしのお言葉ですね、それ。 「私は君が死ぬと困るんだけどね」 「なんか言いましたか?俺耳遠いので聞こえませんぜぇ」 実際は若宮さんの声が小さくて聞こえなかっただけですけどー。 「それだとただ誤魔化しているみたいに聞こえるんだけどね、まぁどうでもいいさ」 ちなみにこれ、君の真似ね。と呟きながら笑う彼女は、やっぱりお姉さんみたいな人だなぁと思う。 「そういえば、君、万引き犯の女子高生を捕まえたって聞いたんだけど本当かな?」 「あぁ、それですか」 普段と変わりない雰囲気で今日のことを聞いてきた・・・・・・・ はずなんだけど微妙に違和感がぴりぴり。俺、なんかしましたかね? 「どーでもよかったんで適当に本を戻してもらって裏口から返しましたよ」 「本当かい?」 少し若宮さんにしてはねちっこい。別に嘘ハ吐イテナイデスヨー。 「本当ですよ。どこかのAVみたいな事はしてませんて」 「君は狼っていうより猫だからね。そんなことは言わないでもわかるさ」 なんか男として馬鹿にされた気分。だからって傷つくわけじゃないけどさ。 「だから、」 「本当に何もないんだよね?」 不安そうな顔が普段の表情と交じり合ってなんとも曖昧な顔になる。って俺には見えた。 あー。なんか少し自己中気味だなぁ、自分。それじゃぁ若宮さんが俺に気があるみたいじゃないか。そんなことあるわけ無いのに。 「はい、何もなかったですよー」 女子高生との密談についてはノーカウント。 「そうか、それは良かった。店長が少し休憩室がうるさいって言ってたからね。私も気になっていたんだよ」 そうか、そうか、って何回も満足して頷く。 「それじゃ、帰ろうか」 75 : 少し大きな本屋さん 2010/08/17(火) 21 19 18 ID wiKAW/bw0 用事の済んだ子供みたいに早足で定員用の出口から出る。 それに続いて俺も出てみたが、夜が深けてる所為で体が一瞬で凍りつく感覚が体中に走る。 簡略すると寒い、寒い! 「あー寒い寒いさむっ!」 「そう大声出さなくてもいいだろうに」 いや、めっちゃ寒いですよこれ。 一応はコート着てますけど寒さが隙間を見つけて入ってくる感じがもうだめ。 「今更なんですが、別に一緒に帰らなくてもいいんじゃないですかー、結構恥ずかしいんですよ」 話題が思いつかないから少し大きな声で前に何回か尋ねたことを言う。寒さは一向に体から離れない。 「道が途中まで一緒なのだからいいじゃないか。それに一人で帰るのはつまらないからね」 「いや、それの所為で前、若宮さんとの関係を疑われたんですから」 これもくどいように聞いてきた。答えはいっつも同じだったけど。 「別に私は気にしないからどうでもいいのだよ」 まるで決め台詞のようにハキハキと呟く。まぁ定番化してるししょうがないかなぁ。 「さいですかー」 こっちも定番化した台詞を口から零す。 別にオリジナリティは求めていないので。 それからは無言が続く、続く。 若宮さんと帰りが一緒になったときはいつもこんな感じで帰るのです。 どちらも会話にするネタとかそんなものは持っていないから。 思いついた事を口にして、2,3回喋ってまただんまり。 それの繰り返し。 だからって別に空気が重いわけじゃない。 若宮さんと俺との関係はそんなものだから、限りなく他人に近いものだから、だから気楽に隣同士で歩けるんだろう。 まぁ、自分勝手に解釈してるだけだけどー。 しばらく歩いて住宅地に入る。そろそろお別れだなぁ。 住宅地に入ってからすぐに、俺たちは別れるのだ。 「それじゃ、また明日に会おう」 「なんでそんなにハキハキとしてらっしゃるんですかねぇ。はぁ、さようなら」 そういって俺は自分の家を目指す。振り向きはせずにただまっすぐ。 風呂、どうしよっかなぁ 「こっちが溜息つきたくなるよ」 「それに、嘘を吐くのはいけないことだって習わなかったのかな?」 「罰として、うむ、そうだな」 「歯ブラシを没収しよう。うん。そうしよう」 「あと」 「あの女子高生についても調べなければいけないな」 「害虫は早めに駆除、と誰か言ってたような気がするからね」
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2548.html
24 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 12 59 52 ID TNfm98K. ~ある加害者のモノローグ・3~ 兄さんが、死んだ。 葬式はひっそりと行われて、兄さんの友達は殆ど来なかったらしい。 両親は早く式を終わらせたかったらしく、私が寝込んでいる間に全てが終わっていた。 「…………兄さん」 もう兄さんがいない部屋で、兄さんの使っていたタオルケットに包まれる。 ……許せない。ただそれだけが私の感情を支配していた。 私がもっと兄さんを支えることが出来たら……無力な自分が許せない。 両親が兄さんを信じてあげられたら……ろくでなしな両親が許せない。 周りが兄さんをおとしめたり苦しめなかったら……無慈悲な周囲の人達が、許せない。 そして何より―― 「…………許せない」 頭の中を反芻する名前。駅員がメモしていた、痴漢の"被害者"とされている……兄さんを死に追いやった"加害者"の名前。 「藤塚……弥生……」 見たのは一瞬だったが私はこの名前を一生忘れないだろう。 非力で無力な、兄さんを救うことの出来なかった今の私では無理かもしれない。 でも、必ず見つけ出す。私の生涯を賭けても必ず見つけ出す。 ……そして復讐する。兄さんに痴漢の濡れ衣を着せてのうのうと生きている藤塚弥生に、復讐する。 ――藤塚弥生を××する。 11話 『なるほどねぇ……それで最近、中条のことを雪とか言っちゃってるわけだ』 電話越しでも伝わる、晃のやれやれみたいな態度に思わずぶん殴ってやりたくなるが、これは電話だ。 残念なことに晃を殴る手段は存在しない。だから冷静に対応しなくてはならない。 「……まあな」 『俺というものがありながら中条にまで手を出すなんて……酷い!鬼畜!鬼!悪魔っ!』 「そもそもお前とそんな関係じゃねぇよ!」 ……やはり晃相手に冷静でいられるはずはなかった。まあ何となく分かっていたことだが。 『とにかく、君の気持ちは分かったよ司君。多いに青春しているみたいで結構だ』 「そりゃどうも……」 あれから、中条を雪と呼ぶようになってから二週間程が経った。 少しずつ雪と呼ぶことにも慣れてきたが、俺が意識するせいか。以前のように気楽に話せなくなっていた。 どうしても雪のことが気になってしまう。今まで体験したことのない感覚に、正直俺は戸惑っていた。 最近、無事退院した真実が俺達のグループに入ってくれたおかげで、何とか雰囲気は平穏に保たれてはいたが、このままではよくない。 そう思って俺は晃に相談することにしたのだった。 『で、結局中条のことが好きってことでいいのか』 「……ああ」 『じゃあ付き合いたいのか?』 「……多分」 『キスしたい?イチャイチャしたい?セックスしたい?』 「お、おいっ!?」 詰問からの超展開に思わず俺は戸惑いを隠せなくなるが、そんなことはお構いなしに晃は話を進めていく。 『いや、付き合うってそういうことだぞ。恋人同士でしか出来ないことが出来るんだから。司は中条をどうしたいんだ?』 「俺が……どうしたいか」 25 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13 00 35 ID TNfm98K. 『それが曖昧な内は告白なんて止めとけ。怪我するだけだぞ、お互いに』 「……別に告白なんて――」 『考えてないわけじゃないだろ?』 晃は俺の心を見透かすように話を続ける。確かに晃の言う通りなのかもしれない。 ……俺は雪と、どうなりたいんだろうか。 「……もう少し、考えてみるわ」 『おう、あんまり難しく考えるなよ。思った気持ちを素直に言葉にすりゃあいい』 晃が友達で、親友で良かった。こんなこと相談出来る奴なんて、そうそういない。現金かもしれないが、晃がいることのありがたさを改めて感じた。 「……ありがとな、晃」 『っ!司君がデレた!!』 「うるせぇ!」 結局こうやっていつも通りのノリにはなってしまうのだが。 『……後は委員長だな』 「真実?真実がどうかしたのか」 『お前は……お前って奴は何処まで朴念仁なんだ』 晃は呆れ果てたような口調で話しながら、溜息をつく。電話越しでも分かる、大きな溜息だった。 『後は自分で考えろよな。あんまりグズグズしてると修羅場を迎えるぞ?』 「ど、どういうことだよ」 『不用意な優しさは誰かを傷付けることに成り兼ねないからな……ま、健闘を祈る!』 「おいっ、晃!おいっ!」 晃に呼び掛けるが既に通話は切られてしまっていた。仕方なく携帯を机に置いてベッドに腰掛ける。 ……俺だってそこまで鈍感じゃない。晃が何を言いたかったか、大体分かる。真実との関係をはっきりさせなければならない。 俺は雪のことが好きだ。この気持ちに偽りはない。 具体的にどうしたいのか、それはまだ分からないが少なくともアイツが他の誰かと付き合ってるのを見たくない。 だからこそ、真実にもはっきりそれを伝えなければならない。 この一ヶ月、嫌がらせにあっていた俺に協力してくれた、真実。 彼女がいなかったら俺はこの一ヶ月で起きた出来事に耐えられなかったかもしれない。 真実がいたからこそ、俺は嫌がらせの犯人を見つけることが出来たんだと思う。 このまま親友としてやっていけたらどれだけ良いか。勿論、俺はそれを望んでいる。しかし―― 「……真実」 真実はそうじゃないかもしれない。俺の思い違いだったら、勝手な自惚れだったら全然構わない。 ……ただ、もしそうじゃなかったとしたら。 「それでも……俺は……ちゃんと言わなきゃ…ならない……」 それが真実に対する礼儀だから。ちゃんと言って、そして雪にも俺の気持ちを伝えなければならない。 ふと壁にかけられたカレンダーが目に入った。もうすぐクリスマス、そして今年が終わる。 「……明日、言おう」 もう時間はない。グズグズしていたら来年になってしまう。 まずは明日、真実に言わなくてはならない。机にあった携帯を取り、メールを作成する。 ------------------------------- To:辻本 真実 Sub:明日 放課後ちょっと時間あるか?話したいことがあるんだけど。 ------------------------------- 「……送信、っと」 少し躊躇いはあったが、いつまでもこうしていても仕方がない。俺は強くボタンを押した。 すると数分後、返信が来ていた。多分世話焼きの真実のことだ。間違いなく―― ------------------------------- From:辻本 真実 Sub:何かあった? 了解。 大丈夫?詳しくは明日聞くわね。 ------------------------------- 了承してくれると思った。嫌がらせにあっていた時だって、元々真実のお節介のおかげだった。だから真実が断るはずはない。 「……後は、ちゃんと言えるかどうかだ」 身勝手なのは分かってる。それでもはっきりさせないといけない。今夜はあまり寝れそうになかった。 26 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13 01 21 ID TNfm98K. 「つ、司おはよう!」 「お、おはよう……」 次の日、教室に着くと同時に雪に話し掛けられた。 「今日なんだけど……放課後ちょっと付き合って欲しいな、なんて……」 何故か段々小さくなっていく雪の声。でも最近少し気まずかっただけに、誘ってくれていること自体はとても嬉しい。嬉しいのだが―― 「あー、わりぃ。今日は……その……無理なんだ」 放課後は真実と会う約束がある。自分から呼び出してキャンセルするわけにもいかない。 「……どうしても、無理?」 雪は懇願するように俺を見る。今日じゃなければ……自分の運の悪さを恨みたくなる。 「ゴメン。今日はどうしても無理なんだ」 「……そっか」 雪は静かに呟いた。よく見ると目の下にはうっすらと隈が出来ており、まぶたも少し腫れていた。 「雪?」 「き、急にゴメンね!また今度誘う!」 「あ、おい!」 そのまま雪は鞄を持って教室を出ていってしまった。もしかしたら何かあったのかもしれない。 何より気になるのは、雪の瞳が……何て言えば良いのか。光を宿していない、という表現が正しいのか。とにかく普通ではなかった。 昨日までは俺が意識しているせいで気まずさはあったが、その他は普通だったはず。何かあったのだろうか。 「おはよう、司君」 「……おはよう、真実」 追い掛けようか迷っているとちょうど教室に入って来た真実に話し掛けられた。 今から追っても雪を見つけられそうにはない。俺は諦めて真実に向かう。 「今日はいつもより遅いな」 「ちょっと用事があったの。あ、今日の放課後でしょ?空けてあるから」 「あ、ああ――」 「そろそろホームルーム始めるぞ!全員座っとけ!」 真実に何かを言う前に、担任が教室に入って来てしまった。ぱらぱらと生徒達が席に着きはじめる。 「詳しい話はまた放課後にしましょ」 真実も駆け足で自分の席に戻って行った。晃のような朝練組もぞろぞろと教室に入り座りはじめた。そんな中―― 「雪……?」 雪は姿を見せず、ホームルームも出席しなかった。 結局雪は朝早く早退してしまったらしい。 その連絡は昼頃クラスに届き、俺の不安は余計に募っていた。 メールも電話も反応が全くなく、本当に体調が悪いのかもしれないが、今朝の様子がとにかく気になった。 もしかしたら無理にでも雪の誘いに乗るべきだったのでは……そんなことを考えている内に気が付けば放課後になっていた。 「……余計なこと考えてても仕方ないか」 とにかく今は真実と話すのが先決だ。しばらく教室で待っていると真実が入って来た。 「ゴメンね!委員会の方が長引いちゃって……」 「お疲れ様。そんなに待ってないから大丈夫だよ」 真実は自分の席に戻り鞄を持ち上げると、近付いて俺の手を掴んできた。 「よし、行きましょ」 「い、行くって何処へ?」 学校の屋上で話をしようと思っていた俺を引っ張りながら、真実はどんどん昇降口に向かっていく。 「誘ってくれてちょうど良かったわ。司君に食べて貰いたい物があるのよ」 「食べて貰いたいって……またいつぞやのパフェか!?」 一ヶ月ほど前。 まだ真実と親しくなって間もない頃、一度特大ジャンボパフェを出す店に連れていかれたことがある。 確かに味は文句なしに美味かったが、あんなもんはそうそう食えやしない。 「違うわよ!とにかく行くわ、ついて来なさい」 「お、おいっ!?」 有無を言わさず真実は俺を連れていくらしい。 ……とりあえずパフェじゃなくて良かった。何処に行くか知らないが、俺が言うことはもう決まっている。 後は真実に伝えるだけだ。そう思って、俺は真実についていくことにした。 27 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13 02 26 ID TNfm98K. 「適当に座っておいて。すぐに用意しちゃうから」 「お、お邪魔します……」 真実は俺を家に連れてきたかったようだ。 一度来たことがあったけれど、やはり女の子の家は自然と緊張してしまうものだ。 本当は真実の家は避けたかったが、真実は頑なだった。まあそういう強引な所も彼女らしいのかもしれないが。 とりあえず落ち着こうとリビングにあった椅子に座り、辺りを眺める。 前回来た時と変わらず、清潔感ある部屋だ。そして仲睦まじい兄妹の写真が、リビングにある写真立てに収まっていた。 ……そういえば真実は一人暮らしって言ってたな。両親から離れて暮らしているみたいだが、兄貴はどうしているんだろう。 写真から見るに大学生くらいだろうか。仲睦まじく写っている二人の写真が夕日に照らされていた。 「はい、どうぞ」 エプロン姿の真実が持って来たのは色とりどりなゼリーだった。 ガラスの器に一口サイズの球状になったゼリーが綺麗に並んでいる。 「おお、綺麗だな。まるで――」 「宝石みたい?」 真実は微笑みながらスプーンを俺に渡してくる。真実の前にも同じようなゼリーが器に入って置かれていた。 「そうそう!」 「……本当に似てるね」 「ん?」 「……私の兄もね、最初に私がこれを作った時、宝石みたいだって言ったの」 真実は写真立てを眺めながら呟く。何だか聞かなければいけないような気がして、俺は黙ることにした。 「……食べてみて?」 真実に勧められるがままにゼリーを一つ口に運ぶ。ちょうど良い甘さとイチゴの風味が口に広がる。美味いな、と素直に思った。 「美味い!サイズもちょうどいいし」 「ふふっ、気に入ってくれてよかった……兄も凄く好きだったの。司君もきっと気に入ると思って」 真実も緑のゼリーを口に運んでいく。エプロン姿の彼女は、何だか新鮮だった。 「それぞれ味が違うんだな。全部美味いよ」 一口ということもありとても食べやすく、すぐに全て食べてしまった。 28 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13 03 02 ID TNfm98K. 「ご馳走様。こないだの弁当といい、真実は料理の才能あるよ」 「ありがとう。あ、そういえば司君の話って?」 「あ、ああ……真実、真剣に聞いて欲しいんだ」 まさかこのタイミングで聞かれるとは思わなかったが仕方ない。俺は真実を真っすぐ見て深呼吸をする。 「俺、実は……好きな人がいてさ」 「……そうなんだ」 真実は微笑みを崩さないまま俺を見つめる。唐突な話のはずなのに何だろう、全てを見透かされている気がする。 「あ、ああ。それで、そいつに……告白しようと思ってるんだ」 「…………」 何と言うのが正解だったのか、俺には分からなかった。 とにかく自分の気持ちは伝えているつもりだ。真実は相変わらず静かな笑みを湛えている。 ……何だろう、頭がクラクラする。よっぽど緊張しているのだろうか。 「……そ、その相手ってのが――」 「中条さんでしょ?」 「……えっ」 「ふふっ、司君って本当に分かりやすいよね。すぐに顔に出るから。よく言われない?」 真実はすっと立ち上がって俺を見つめる。つられて俺も立ち上がろうとするが、力が上手く入らない。 「……っ!?な、なんだ……?」 「まあ、それだけ食べたら効くわよ。睡眠薬がたっぷり入ったゼリーだからね」 真実の声が反響して耳に残る。視界もいつの間にかぼやけてしまっていた。 ……睡眠薬?一体何を話しているんだ。まさか俺の食べたゼリーに……。 「どうしてって顔してるわね……私からしたら、こっちの方がどうしてって感じだけど」 「な……んだっ……て……」 もう一度立ち上がろうとするが、力が入らず床に倒れてしまった。起き上がることも出来ず、段々意識が朦朧としていく。 「そういう鈍感な所も……兄さんそっくり……だから、許してあげようと思ったのに」 ……許す?真実は何を言っているのか、さっきから皆目見当がつかない。 足音が近付いてくる。力を振り絞って見上げると、真実が無表情で俺を見下ろしていた。 「馬鹿な司君。中条さんを選ばなきゃ、こんなことしなかったのに……」 「ま……み……」 真実は屈んで優しく俺の胸を撫でる。もう視界はぐにゃぐにゃに歪み、意識は飛ぶ寸前だった。 結局、何で真実がこんなことをするのか。そして何をしようとしているのか。俺には全く分からないままだ。 ……俺は許されないことをしたのだろうか。 「ま……」 「今はゆっくり休んで。じゃないと――」 意識が深い闇に落ちていく。逆らいたいがどうしようもない。 真実に言われるがまま、俺はゆっくりと意識を手放していく―― 「……怒っちゃうよ」 クスッと笑いながら彼女は俺に囁いた。何処かで聞いたことのある真実の台詞が、俺が最後に聞いた言葉だった。 29 :嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13 03 35 ID TNfm98K. 暗闇の中、あたしは一人膝を抱えて縮こまる。頭の中は今朝の出来事がひたすら反芻していた。 「嘘だよね、司……」 今朝、委員長に言われたことが頭から離れない。 『今日、司君に大事な話があるって言われたの……中条さん、何か知ってる?』 「嘘だよね、司……」 委員長は、あの女はどうしてこんなにもあたしの心を蝕んでいくのだろうか―― 『そう、ごめんなさい。中条さんなら何か知ってると思って……だって司君の――』 「嘘……だよね……」 吐き気がする。司が隣に居てくれたら。こないだみたいに抱きしめてくれたら。あたしはあたしで居られるのに―― 『"親友"でしょ?』 「っ!?」 突然、無機質な電子音が真っ暗な部屋に響く。机の上にある携帯をゆっくりと掴む。 メールが一通届いているようだった。こんな時に誰が―― 「……っ!」 差出人には"藤塚司"と表示されていた。あたしが今一番会いたい人。思わず携帯を持つ手が震える。とりあえず落ち着こう。 逸る気持ちを抑えつつゆっくりとボタンを押すと、本文が表示された。あたしはそれを目で追う―― 「う……そ……」 ------------------------------------ To:藤塚 司 Sub:報告 真実と付き合うことにした。 いきなりだけど、今日告白したんだ。 中条のおかけで付き合えたよ、ありがとな。 今、真実の家で料理をご馳走になってる。 とりあえず、取り急ぎ報告した。小坂にもよろしくな。 -------------------------------------- 「……うそ」 あたしの中の何かが音を立てて崩れ落ちたような気がした。 気持ちが上手く整理出来ない。ただ呆然と本文を見つめるしかなかった。 「…………………あはは、あははははははははははははは!」 何だろう。何であたしは笑ってるんだろう。なんで笑っているのに、こんなに悲しい気持ちになるんだろう。何で……涙が止まらないんだろう。 ……なんとなく、恋愛に異常に執着する人の気持ちが分かった。好きな人の幸せは必ずしも自分自身の幸せとは繋がらないんだ。 「あはははは……」 ゴメンね、司。もう限界みたい。今までずっと我慢してきたけど、もう抑えきれない。 あたしは何かに支配されたようにゆっくりと立ち上がった。 さあ、行かなきゃ。間違ってるんだから、止めなきゃ。 だって司は……司は、あたしの司なんだから。 「待っててね、司。すぐに……行くから」 もうあたしを止めるものは何もない。枯れてしまったのか、涙はいつの間にか止まっていた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/683.html
163 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 19 57 50 ID VkcjW4hz 序 「誠一さん・・・」 そう呟くと愛しい男の写真に目を落とした。 神坂真奈美は新興住宅地に住む主婦である。 もう30の声が聞こえてくるが見た目はまだ20代前半といったところだ。 そんな主婦が一人で新築の一軒家に住んでいる。 ‐かつて夫が買った家。‐ 「誠一さん・・・まだ帰ってこないのかな・・・?」 もう一度そう呟くと一人静かに台所へと向かった。 第1章 それは2年前のことだった。 「あなた~!!」 周りの奇異の視線を気にすることなく大声で叫びながら まるで10代の少女のような快活さで真奈美は走ってくる。 「やれやれ・・・」 誠一はその様子を見ながら苦笑いを浮かべ 「まるで主人に駆け寄ってくる子犬だな」 と真奈美に聞こえない程の小声で一人呟いていた。 ドンという軽い衝撃とともに抱きついてきた真奈美の体を受け止める。 すると真奈美は顔を上げ少し恨めしげな視線を誠一に送りつつ 「誠一さん・・・今、犬みたいだとか思ってなかった?」 と問いかけてきた。 「いゃ~?そんなことないよ?」 そ知らぬ表情で流すが内心は『もしや妻はニュー○イプか!?』 とかなり慌てていた。 164 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 20 00 26 ID VkcjW4hz 「まぁいいや!おなかすいた~ご飯食べにいこ!」 とやや頬を膨らませながらもタクシーを拾った。 車内に乗り込むとガイドブックを片手に片言の英語で 運転手に行き先を告げると真奈美はうれしそうに 「去年とは違うお店にしたんだ」 と言いつつ手を絡めてきた。 真奈美と誠一が結婚して1年経つ。 その間誠一は新規の事業を任され新婚だというのに ろくに家を省みることが出来なかった。 だが妻はそんな夫をかいがいしく支え続けた。 なんとか仕事が一段落しやっと長期の休暇がとれ 今まで構ってやれなかった妻に対する罪滅ぼしよろしく2度目の新婚旅行にやってきていたのだ。 行き先は去年と同じタイ・バンコクだ。 『どこでもいいんだぞ?』 と誠一は言ったが真奈美は 『去年まわれなかった所も見たい』 と2度目のバンコク訪問となったのだ。 食事を終えホテルに戻り人心地ついていると突然真奈美は 「夜景を見に行こう!」 と言い出した。 「もう夜は出歩かないほうがいいよ。ここは日本とは違って治安が良いわけじゃないから」 と誠一がたしなめるが駄々っ子のように頬を膨らませ 「いや~いくの~せいいちさんとよるのおさんぽするの~」 と言って聞かない。こうなってしまったら誠一は真奈美に勝てない。 『まぁ元々真奈美の為の旅行だしな・・・俺がついてれば問題ないだろ』 と結局妻とともに夜の街を散歩することにした。 ホテルを出てしばらく二人で手をつなぎながらぶらぶらと散歩していると いつの間にか見慣れない路地に入り込んでしまっていた。 誠一は 『まいったなぁ・・・迷ったか?』 と立ち止まり大通りに戻ろうと妻の手を引き踵を返すと そこには先ほどは居なかった男たちが自分と妻を取り囲んでいた。 手にはナイフが握られている。 リーダー格らしい男が 「MONEY!MONEY!」 と言っているところをみるとどうやら追いはぎのようだ。 とりあえず財布の中にあった現金を差し出すべく男に近づこうとする その時ぎゅっと手を握られた。見ると妻が震えている。 「大丈夫・・・俺が守る・・・あいつらも金さえ渡せば危害は加えないだろ」 といつもの口調で語り掛け男たちのほうへ向かっていった。 165 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 20 02 17 ID VkcjW4hz リーダー格の男に金を渡しその場を離れようとするといきなり周りの男たちが 飛び掛ってきた。逃げようともがくが気づけば全員で誠一を押さえつけようとしていた。 真奈美は一瞬目の前で何が起こったか理解できずにいた。 『最初から逃がしてくれる気は無かったか!』 と誠一は一瞬後悔するがそんなことよりも先に妻を逃がさなければならないと 放心している真奈美に向かい 「何してる!!!早く逃げろ!!!」 と叫ぶ。 が真奈美は消え入りそうな声で 「ぇ・・・でも・・・」 と、まだ放心状態のままだ。 「はやくホテルに戻って警察を!!」 との叫びでようやく我に帰った真奈美は路地を抜け大通りを駆けぬけた ホテルへ戻ると「警察を!!!はやく!!!はやく!!!」と 泣き叫ぶ。ボーイが慌てて駆け寄ってくるが 日本語が出来ないらしく困惑の表情を浮かべフロントのマネージャーを見る マネージャーも慌ててフロントから真奈美に駆け寄り片言の日本語で 「どうしましたか?なにかあったのですか。」 と優しく問いかけた。 それを聞き少し落ち着いた真奈美は 「せいいちさんが・・・ろじで・・・しらないおとこたちにかこまれて・・・」 と訴えた。 そこから先のことは真奈美は夢の中の出来事のように感じていた。 その後警察が現場に到着し発見したものは冷たくなった一人の日本人旅行者だった。 大使館の職員が来た。現地の警察が事情を聞きに来た。帰国しマスコミが来た。 その全てが夢の中の出来事 テレビをつければ誠一が写っている。 <・・・死・・・た神坂誠一さんは・・・現地では警察が犯人の行方・・・未だ何の手・・・も・・・いない・・・です。> 『・・・このひとはなにをいっているのかな?』 ぼーっとテレビを見ていた真奈美はニュースキャスターの話している内容が理解できずにいた。 『せいいちさんはもうすぐかえってくるのに』 薄く笑いを浮かべつつ真奈美はそう呟いていた。 あの日から真奈美は全てが壊れてしまった。 自分があの夜夫を連れ出さなければという自責の念が心を蝕んでいき ついに誠一が死んだことすら認められなくなっていた。 それから真奈美は2年間帰るはずの無い夫を待ち続けた。 なぜか預金通帳には多額の金が保険会社から振り込まれていて生活は苦労をしなかったが その保険会社から 『このたびは御主人様大変ご愁傷様です。保険に関しましては今回の事案では全額支払われますので・・・』 と言ってきて訳が分からなかった。 第1章終
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2657.html
177 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 40 36.60 ID E3sCOcG7 壁を通して聞こえてきた怒号に、「またか」と思う。 自分のすぐ近くにある薄汚れた壁を見て、溜め息をつく。築三十年を越す安普請だけあって、壁などあってないようなものだった。お隣さんの生活音を聞くのに、コップを使って耳に当てる必要などない。 お次は、肉と肉がぶつかり合う音だ。飛んできた生々しい音に、顔をしかめてしまう。何度も聞いてきた音だが、これだけは慣れる気がしなかった。一生物として受け付けられない、生理的な嫌悪感があった。 俺はテレビの音量を上げ、コタツの上に置いていたカップラーメンの蓋をペリペリと剥がして、伸び始めている麺をすすった。 が、あまり味がしない。胸中を渦巻くモヤモヤのせいだろう。仕方がないので、機械的にズルズルと胃に送り込む。 現代の日本では、隣人トラブルが絶えないときく。あと、児童虐待も。 隣の住人について、俺は深くは知らない。知っていることといえばせいぜい、母と娘の二人家族だってことぐらいだ。 だが、その内情については嫌でもわかってしまう。否が応でも、理解させられてしまう。 毎日、ひっきりなしに届く罵声と暴力の騒音。聞こえてくるのは主に母親のヒステリックな悲鳴だった。娘のほうは、たまにくぐもったうめき声を上げるくらいで、特に泣いたり叫んだりはしない。奇怪なほどに静かだ。 たしか、娘はまだ幼児と呼称できるくらいに幼かった気がする。一度か二度、通り合ったことがある。 が、じろじろ見るのも憚れたので、あえて目を逸らしていた。そのため、娘がどんな姿形をしているのかはわからない。 母親の暴言は未だに続いていた。だけど、なぜだか娘の声が聞こえない。もしかして……と、嫌な予感が脳内をよぎるが、頭を振って余計な考えを振り払う。 俺だって、隣の惨状を見てみぬふりで済ませたりはしなかった。 過去に俺は、隣の部屋で虐待が行われている可能性があると大家に連絡したことがあった。 最初こそ、あーだこーだと屁理屈をこねて動かなかった大家も、度重なる俺の連絡に辟易としたのだろう。 ある日、遂にその重い腰を上げ、児童相談所(?)に連絡したらしく、スーツ姿の職員が派遣されてきた。実際に俺自身も、彼等から話を聞かれ、ありのままの惨状を答えた。 だが、現状は変わらなかった。 後から調べたことによると、強制的な児童保護にまで至るまでには煩雑なプロセスが必要らしい。 戦前からの家制度がいまだ色濃く残る日本では、よそ様の家には安易に口出しをしない、という暗黙知があり、法律にもそれが反映されている。 職員たちに出来ることといえばせいぜい、口頭での注意ぐらいだった。結果、虐待はまだ続いている。 178 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 41 42.96 ID E3sCOcG7 こりゃ無理だな、と俺もいい加減に悟り、その後は徹底的な無視と無関心に徹した。我関せずの態度を貫き通し、隣の虐待に目を瞑り、耳を塞ぎ、知らんぷりをしている。 世間の人々は、そんな俺のことを非情な輩だと罵るのかもしれない。が、誰にも文句を言わせない。言わせてたまるものか。 そもそも、俺と同じ立場にたって、どれほどの人間が精力的に動くというのだろう。断言してもいい。大半の人間は不平不満をこぼすだけで終わる。むしろ、曲がりなりにもアクションを起こした俺のほうがマシであろう。 と、どうやらお隣に進展があったみたいだ。 母親が猿みたいな金切り声で叫び、部屋を出ていった。カンカン、と階段を降りる音がこちらにも聞こえてきた。 やれやれ。やっと数少ない平穏な時間が訪れたというわけか。俺はカップラーメンの容器をゴミ箱に捨て、タバコを吸おうとポケットに手を入れた。が、 「切らしてやがる……」 どうしようか、と考える。外に出るのも面倒なので、我慢するのが金銭的にも得策だ。だけれど、食後という時間帯もあって、身体がニコチンを切に欲している。隣の虐待は無視できても、己の嘆願は無視できまい。 仕方がないか。 俺は近くのコンビニまで行くことにした。畳に放り投げてあったコートを取り、玄関でサンダルを履き外に出る。 「寒い」 夜のしんしんとした冷気がコート越しにも伝わってきた。十一月に入ってからというものの、急に冷え込みだしてきやがった。今年は夏の余韻が長引いていたので、寒さ嫌いの俺にとっては歓喜の日々が続いていたのだが……。 ブルリと身を震わせて、俺は歩き出す。 「ん?」 そして、気づいた。隣のドアが開いていることに。 「不用心だな……」 あの母親が果たして何処に行ったのかは存じないが、ドアすら閉めぬとはどういう了見なのか。激情のせいで防犯意識が希薄になったとはいえ、それくらいのことは普段から心得ておけと忠告したくなる。 まあ、隣人のせめてもの情けとしてドアぐらいは閉めてやるか。 そう思って、お隣さんの古くなった木造ドアを手で掴んだのだが、 「……」 見るつもりなど無かった。なのに、つい、部屋の中の様子が目に入ってしまった。 玄関の奥にある六畳間の狭い部屋の中で、俺はぐったりと倒れている人影を見てしまった。電気は消されているのでよく視認できないが、その人影はピクリとも身動ぎしていない。 最悪の事態が頭を過ぎる。俺は弾かれるようにして土足のまま室内に飛び込み、人影に近づいた。 「大丈夫か」 近くまでくると、はっきりとその姿を確認できた。闇に浮かび上がる小さな身体。長い黒髪を地面に散らばせ、うつ伏せに倒れていた。 俺はその身体ひっくり返し、四体を観察した。よかった。暗いのでよくは見えなかったが、きちんと胸は上下していた。生きている。俺はよっぽど安堵した。 179 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 42 51.94 ID E3sCOcG7 「おい、起きろ」 意識があるかを確認するために、頬を軽く叩きながら呼びかける。すると、歳幾ばくもない女児は緩慢に目を開けた。 「あなたは」 聞き逃してしまいそうなほどの、か細い声だった。これだけで、女児の薄弱さが知れた。 「隣に住む者だ。勝手に部屋に入って申し訳ないと思っている。それはさておき、どうだ。どこか痛むところはあるか?」 「ありません。平気です」 女児は淡々とそう言うが、どう見たって平気ではない。俺は彼女を抱きかかえると、自分の部屋まで運ぶことにした。 「やめてください」 道中、女児は身をよじって抵抗したが、その抵抗すらも弱々しかった。そこらの小型犬のほうがもうちょっと動き回る。 俺は彼女を自室まで運び終えると、畳の上に横たえた。そして明かりを点け、普段は使わない電気ストーブも動かす。 「きゅうきゅう車は呼ばないでください」 これだけは譲れないという口調で女児が言ったので、俺は仕方なしに救急車を諦めた。それでも応急処置ぐらいはするべきだろうと、俺はタンスの上で埃を被っていた救急箱を手に取り、女児の横に座り込んだ。 それにしても……。 先は暗闇のせいでわからなかったが、こうして明るいところで見ると、女児の浮世離れした美しさが奇特に目立った。 ともすれば不気味とさえ感じてしまうほどに、顔の造形が並外れて整っている。薄汚れた服を着ているのだが、それさえも美しさを引き立てるアクセントになっているから驚きだ。 正味、四・五歳といったところだろうか。余分に見積もったとしても、小学校低学年あたりだ。 普通なら美しいではなく可愛いという形容詞がつく年頃なのだが、不思議とそうは感じなかった。やはり、この女児には可愛いではなく美しいという言葉が似合う。 と、今はそんなことを考えている場合ではなかった。とにかく治療を優先しなくては。 「今から応急処置をするから、特別痛みがある箇所を教えてくれ」 小さな傷はあちらこちらに見られるのだが、ぶっちゃけ素人にはどこから取りかかればいいのかがわからない。なので、最も傷の酷いところを訊いたのだが、 「ひつようありません」 息も絶え絶えという状態ながらも、女児はきっぱりと拒絶した。 救急車を拒否し、そのうえ簡素な治療さえも拒むとは……。さすがに、女児のとっている態度は不自然だった。 180 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 44 10.06 ID E3sCOcG7 「ちょっと失礼するぞ」 もしやと思い、俺は女児の着ている服の裾を掴んだ。 「やめてください」 女児の年齢不相応の美しさのせいだろう、年端のいかぬ児童が相手だとはいえ、裸体を見るのには些か抵抗があった。が、今はそんなこといってられない。俺は構わず女児の服を捲った。 そこにあったのは、本来の肌色が見えぬほどの大量の青アザ。その上に、痛々しい切り傷やミミズ腫れが走っている。中には化膿している傷口もあり、早急な治療が必須なのは明白だった。 さすがに、限界だ。俺は携帯電話を手に取ると、救急車を呼んだ。女児は何か言いたげに虚空に手を伸ばしていたが、やがて諦めたのだろう。伸ばした手を下ろして、今はボンヤリと天井を見つめている。 「わたしは、すてられてしまうでしょう」 通報を済ますと、女児は子供らしからぬ諦念を帯びた力無い声で言った。 「これから、どうすればいいのでしょうか」 今思えば、それはただの独り言だったのだろう。自分の置かれた状況を確認して、そう遠くない未来に想像の枝を伸ばしただけだ。無論、彼女の傍に座り込んでいるだけの俺に質問した訳ではない。 しかし、俺は盛大に勘違いをしてしまった。それが自分に向けられた質問だと思い違えて、女児の呟きに真剣に考えを巡らしてしまった。あーだこーだと頭の中で意見をこねくり回し吟味してしまった。 粘土を形作るように私見を固め、俺はゆっくりと意見を述べた。 「あまり、悲観するな」 女児は弱々しく頭を動かし、黙って俺を見つめた。 「自分の近くにドデカイ絶望があると、ついそればかりに目がいって、他のことは何も考えられなくなってしまう。そのまま視野狭窄に陥り、止めときゃいいのに最後にゃその絶望を選び取ってしまうんだ」 「…………」 「そしてお前は今、その状態だ」 女児はあまり俺の言っていることを理解している風ではなかった。だけど、楽観的な見解であるとは感じ取ったのか、思いのほか強い口調で訊いてくる。 「なら、どうすればいいのですか」 「泣いて喚けばいい。お前はまだガキなんだからよ。世間ってのは子供に優しいように出来ているから、お前がわんわんと泣いていれば、きっと誰かが助けてくれる」 「泣くと、お母さんにおこられます」 「そういうところを視野が狭いっていうんだ。母親ってのが皆が皆、無条件に子を愛するわけじゃない。時には、子供の側から見切りをつける必要がある。いつまでも自分の母親に縛り付けられるんじゃない」 181 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 45 13.87 ID E3sCOcG7 俺の言葉を受けて、女児は深く考え込んでいる様子だった。やはり本質的に頭のいい子なのだろう。子供にとっては絶対の存在である母親が否定されても、彼女は取り乱したり反論したりせず、客観的に思考を広げているようだった。 だが、その子供らしからぬ態度が少し目に余った。子供とは、良くも悪くも愚かであるべきだ。女児の年齢を鑑みても、些か達観し過ぎているような気がする。 そんな女児を賢い子だと捉えるべきなのか、それとも壊れている子だと捉えるべきなのかは、今の俺には判断出来なかった。 ややしてから、女児が問いかけてくる。 「どうして、あなたはわたしを助けたのですか」 今までの主旨からは大きく離れた唐突な話題転換に、少し面を食らった。まさか俺の方に疑問の矛先が向くとは。 けれど、その質問に答えるのは簡単だった。俺は即座に返答する。 「別に助けたくて助けたわけじゃない。今だって、正直に言えばかなり不本意な状況なんだ。俺は一生、お前たちと関わるつもりはなかったんだから」 それは偽りのない本心だった。俺は別に、親切心から女児を助けたわけではない。本当に、なんとなく流れでこうなってしまっただけだ。だから、彼女は俺に感謝をする必要もないだろうし、俺もして欲しくなかった。 だから、わざと突き放したような言い方をした。 が、 「でも、助けた」 女児は再度、理由を訊ねる。 「確かに、結果的にはそうなった。でも、仕方がなかった。俺は臆病者だった。衰弱したお前を見捨てる勇気がなかったんだ」 「あなたは、わたしを助けたくなかった」 「ああ。これっぽっちも助けたくなかった。むしろ、面倒事に巻き込んだお前を恨んでいるくらいだ」 「…………」 女児は再び沈黙した。 俺のつっけんどんな物言いに気落ちした、という風でもなかったが、俺はなんとなく居心地の悪い思いをした。 子供相手に、しかも虐待を受けている子相手に辛辣すぎやしなかったかと後悔する。これでは、俺まで虐待に加わっているみたいではないか。 182 :わたしのかみさま ◆lSx6T.AFVo :2013/10/12(土) 14 46 20.59 ID E3sCOcG7 もっと建設的な話をしよう。 俺は殊更明るい口調で、間を繋ぐために言葉を続ける。 「そうだな。お前はこれから宗教でも持てばいい。新しい心の拠り所になるかもしれない」 「しゅうきょう」 女児は宗教の意味がわからないみたいだった。なので、俺はもっと噛み砕いて説明する。 「要するに、神だ。お前にとっての神様を見つければいい」 その時の女児の変化を、俺は一生忘れられないだろう。 外見上に顕著な変化があったわけではない。半開きだった瞳を大きく見開いたくらいで、他には何もありゃしなかった。しかしその中身、内心の揺れがとんでもなく大きかったことはわかった。 先程までの女児は、この世の全てを諦めているような澄んだ瞳をしていた。が、その瞳がドロドロと濁り始め、差し込む蛍光灯の光さえも飲み込み始めている。 息を呑んだ。 一体、彼女の中でどのような神経衝動が起きたのだろうか。 と、俺が目を丸くしていると、突然、女児が身体を起こそうとした。 「無理するな。横になっとけ」 しかし俺の言葉を無視し、痛みに顔を歪ませながらもなんとか上半身を起こす。そして、その濁った瞳で俺を見つめた。 それは不思議な視線だった。無邪気なような邪悪なような、嬉しいような悲しいような、なんとも形容しがたい感情を伴っている。俺はなんとなく目を離せなくなり、長いこと二人して見つめ合った。 「かみさま」 遂に限界が来たのだろう。女児はそれだけ言うと横になり、そのまま意識を失ってしまった。 遠くでサイレンの音が聞こえた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2128.html
96 名前:日常に潜む闇 第12話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/02/20(日) 11 53 09.70 ID asB0LgfD [2/7] ~Side of Seiji and Hiroshi~ 久坂誠二が天城美佐枝のもとから逃走してから数十分後、彼は友人の雪下弘志と待ち合わせ場所のバグドナルドに来ていた。 途中、メールで二階に上がっていると連絡がきて、早速二階に上がって周囲を見回してみれば弘志はすぐに見つかった。 「や、遅れてごめん」 「気にすんなって。それよりも座れよ」 弘志に促され、息を整えながら座席に腰を下ろす誠二。 「それで話っていうのは?」 「ああ。けどその前に確認したい。誠二、お前生徒会に入ったんだって?」 「うん。そうだよ」 事実なだけに、躊躇なく答える誠二。 一方の弘志は複雑な表情をしていた。 「そう、か……」 呟くと、オレンジジュースをストローでズズッと音を立てて飲む弘志。 「恐らく生徒会に入ったことでお前の立場はより厳しくなるかもしれない」 「…………どういうこと?」 さすがにこれは聞き捨てならなかった誠二は、どことなく声を潜め、尋ねる。 そうなれば自然と弘志も声を低くして話し始める。 「久遠坂学園での生徒会だの学生会だのっていうのは、名誉ある役職だ。そして俺たちの高等部、久坂誠一生徒会長率いる今の生徒会ははっきり言って異常だ。 なにせ会長と副会長だけで全てが上手く回っているんだからな。逆に言えば、能力が高くカリスマのある集団とも言える。 そうなだけに、うちらの高等部じゃ生徒会に入れるやつはすなわち会長ないしは副会長に認められた人間ってことになるんだよ。必然的にな」 そこまで言って、弘志は一旦言葉を切った。おそらくは誠二にどういう意味かを理解させるためだろう。 誠二は誠二で、そこまで言われて、何が問題となるのかようやく理解していた。 「つまり、僕が副会長を籠絡させて、上手く取り入ったと思われるって訳?」 「そう。そうだ。今のイジメの原因ともなっている噂が噂だけに、な」 だが最悪なのはまだこれからだ、と弘志は深刻な口調で続ける。 「天城副会長はもとより久坂生徒会長も噂は耳にしている。そして誠二を生徒会に入れさせればどうなるかをしっかりと予想したうえでお前を執行部入りさせたんだ」 「………………」 それは誠二がどことなく予期していたことだった。 だから、今更こうもあからさまに指摘されても驚きも衝撃もない。 むしろ、ああやはり、とどこかで納得していた。 そうでもなければあの兄がトップエリート集団である現・生徒会に自らを招くことなんて絶対にしないからだ。 97 名前:日常に潜む闇 第12話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/02/20(日) 11 53 42.41 ID asB0LgfD [3/7] しかし、そうなると美佐枝は兄の指示を受けて生徒会に誘ったのか? いや、それが事実ならば彼女の今までの行動も全て演技だったということになる。そう考えた途端、背筋が薄ら寒く感じられた。 あり得ない。いや、そんなはずがない。そうであってほしくない。 それは紛れもない恐怖。逃れられようのない怯え。耐えがたい苦痛。 いつの間にか美佐枝に依存することでしか立脚点を見いだせなくなっていることに誠二はこの時点では気付いていなかった。 裏切りであって欲しくない。 その一心だった。 あれは演技ではない。全ては演技ではない。美佐枝を兄が利用しているだけなのだと、自分に言い聞かせ、内心の落ち着きを取り戻す誠二。 「天城副会長は引き込むために演技をしていたのかどうか、その点については何も言えない。けれど、会長と結託してはないだろう。副会長は清廉潔白を常としている人だ。あの人の性格を考えれば、本人は意図せずして利用されていると見て間違いない」 弘志の推測はまだ続いていた。 「ただそこで鍵となるのが、どうして副会長がお前に好意を持ってるかだな。それが確かなものであれば、副会長はこの件にノータッチだろうよ。そしてイジメに関して黒に限りなく近い灰色として、久坂生徒会長が浮上する。少なくとも俺はあの男が首謀者だと思ってる」 「…………まあ、兄さんはあんな性格してるしね」 いくら血縁者だからとはいえ、そこは否定できないのではっきりと断言する誠二。 それに、過去のこともある。 一端でも思い起こしてしまえば自然、拳に力が入ってしまうのも無理はない。 「苛立ちたくなるくらい理不尽だと俺も思うが、ここはクールになれよ。冷静にならなきゃ相手の思う坪だ」 「分かってる。……ごめん、ありがとう」 顔に出ずとも、他の所で内心を露わにしていたらしい。 そのことを弘志に指摘され、誠二は思わず苦笑を洩らす。 「気にすんなって。ま、結局のところ俺が忠告したいのはそれくらいだな。今は相手の土俵でしか対抗のしようがない。で、だ。話は変わるが、副会長とはどこまでいったんだ?」 ニヤリ、と好事家じみた笑みを浮かべて尋ねる弘志。 一瞬何のことかと訳が分からなくなる誠二だったが、すぐに言葉の意味を悟った。 「あー、うん。まあ普通かな。いたって普通の関係だね」 「……つまらん奴だなぁ。もっとこう、チェリーボーイの無限の想像力をかきたてるような熱い展開はなかったのかよ?」 自らの童貞を暴露しつつ弘志は呆れた表情をした。 そんな情報通の友人に、ちょっと辟易しつつ、美佐枝との関係は健全なものだ、問題ない。と誠二は自分に言い聞かせていた。 「まあ、僕らはまだ高校生なわけだし。さすがに不純異性交遊とかは駄目だよ」 「そこに彼女または彼氏の部屋に遊びに行くっていう概念は含まれてないんだろ?」 「う……そりゃあ、美佐枝さんとは友達なわけだし、友人同士の付き合いなら普通でしょ」 「ほほう? 美佐枝さん、ねえ」 口の端を吊り上げて、面白いネタが釣れたと笑みを浮かべる弘志。 直後、誠二は墓穴を掘ったことを悟る。しかしここでムキなって否定することも、肯定することも自分を追い込むことに他ならない。それになんとなくだが癪に障る。 「ま、友人なら互いに名前で呼び合うくらい普通でしょ。それが先輩命令とあっちゃね」 しれっと言って誠二は肩を竦めた。 99 名前:日常に潜む闇 第12話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/02/20(日) 11 54 26.46 ID asB0LgfD [4/7] 「まあそういうことにしといてやるさ」 この問題に噛みつく気が弘志にはないらしく、それ以上深い追求はしてこなかった。 誠二はふと窓の外を見やる。ここは二階だから地上が良く見渡せる。夕方ということもあってか人の往来が激しい。そのうごめきようはまるで一つの生物のように感じられた。 「…………ん?」 その中でただ一点、誰もが避けるような動きを取る場所が目に留まる。 目を凝らして見れば、見知った顔がそこにあった。 「美佐枝さん…………」 彼女は道の真ん中でこちらをじっと見つめている。いや、射抜いている、という表現が正しいのかもしれない。 無表情で、しかし力のこめられた両の眼にはどことなく畏怖を掻き立てられる。 「どうした?」 窓から目を離そうとしない誠二を不審に思った弘志が声をかけた。 その一言にハッと意識を取り戻したかのように慌てて誠二は窓の外から視線を外した。 「いや、なんでもないよ」 そう言って席を立つ。 「ごめん。急用思い出したから帰るね」 「そうか。じゃ、また明日な」 「うん、また明日。じゃあね」 手短に別れのあいさつを交わし、誠二は急ぎ足で店外へ出た。 人の波をかき分けながら、早足になりたがる気持ちを抑えてゆっくりと進む。 恐らくだが天城美佐枝はこちらを追跡しているだろう。さすがに相手に気取られないように後ろを確認だなんて芸当はできないが、今までの彼女の言動を思い返せば予想するに難くない範疇だ。 窓から見えた美佐枝の視線、そこから感じられた雰囲気はどうしてか別れ際の彼女のそれと似ていた。 考えたくもないが、たぶんあのまま雪下弘志と一緒にいたら弘志が何かしらの被害に遭ってしまうのではないか。そんなあり得ない想像をしてしまった。 「いや、まさかね……」 思わず口から零れ落ち、自嘲気味に肩を竦める。 だが本能的に危険を感じたのだ。友人のため、不信であることの罪悪感は否めないが打てる手は打っておくべきと結論付け、誠二は学園のゲートに向かって歩く。 ゲートで学生証を認証機器にかざして敷地外に出るとそこからは下り坂だ。ここを通らなくては学園に出入りできないから、名称に坂の字が含まれているのだろうかと気を紛らわせるついでに考えてしまう。 とりあえずこのまま帰宅するつもりでいるが、仮に、本当に美佐枝が後ろからついて来ているのであればどう対応するべきか、と思考に没頭する誠二。 しかし家に着くまでに良い妙案が見つかることもなく、ついに門前にまで来てしまった。 こうなったらその場の勢いに任せるしかないと腹をくくり、解錠して家に上がり込んだ。 その日、予想に反して天城美佐枝が久坂誠二宅を訪れることはなかった。 100 名前:日常に潜む闇 第12話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/02/20(日) 11 55 31.63 ID asB0LgfD [5/7] ~Side of Hiroshi Yukishita and ???~ 「なーんか怪しいよなあ」 追加注文したハンバーガーに食らいつきながら弘志は誠二の言動を思い起こしていた。 窓の外を我を忘れるくらい見続けた挙句、こちらから声をかければ用事だと言って帰ってしまった。 これは何かを見つけて慌ててこの場から立ち去ったとしか考えられない。 さてはて、どうしたものか。 オレンジジュースもそろそろ飽きてきたかなと思いつつ、ガラガラと音が鳴るまでストローで吸い続ける。 「ちょっといいか? 後輩」 頭上横方から声をかけられ、弘志がそちらをむくと、彼の表情は瞬時に硬くなった。 「誰かと思えば副会長さんじゃないですか」 馴れ馴れしいわけでも慇懃なわけでもない態度を示す弘志。 対する美佐枝の表情は無表情を通り越して、見る者に恐怖を与えるような雰囲気が滲み出ている。 「お前に聞きたい事がある」 「それは仕事の依頼ですか?」 「好きに解釈すればいい」 副会長がこう言う時は大抵の場合、深入りすれば容赦はしないという意味を持つ。 「それで、自分に聞きたい事とはなんでしょうか?」 こちらとしても下手に首を突っ込んでまだ死ぬ気はないのだ。それが情報屋を営む上での秘訣でもある。 「ああ。久坂誠二のことだ」 弘志とは真向かいの位置に座りながら美佐枝は告げた。 その言葉に間髪入れず拒否の姿勢を弘志は取る。 「親友を売ることはできない。それは最初の取引の時に行ったはずですが?」 「なに。そういきり立つな。私は誠二を守るために動いている。そのためにはもっと情報が必要なんでな」 「…………その言葉の保証は?」 「私の信頼といったところか」 「と、いうと?」 「皆は私を信頼している。しかし全校生徒の苛めの対象である久坂誠二と交際していることが発覚すれば、私への信頼は薄れるだろう。節操無しでろくでなしの男と付き合っている、エリートにあるまじき副生徒会長様、とな」 美佐枝は凄絶な笑みを浮かべた。 一瞬、彼女の雰囲気に呑まれそうになって、弘志は目をつぶり、肺に溜まった息を深く吐き出す。 確かに、まだまだおつむがお子様な連中はその情報が流れれば、そう思うはずだ。しかしここで了承するわけにはいかない。問題を解決するためには、こちらとしても情報が欲しいからだ。 顔の半分を手で覆い、まるで困ったかのような演出をする弘志。 「今回の一件、当方では生徒会が関与しているように思われるのですが、そのような疑いのある貴女に情報提供できると思いますか?」 101 名前:日常に潜む闇 第12話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/02/20(日) 11 56 26.34 ID asB0LgfD [6/7] 「いつから君は探偵ごっこも兼業するようになったんだ?」 否定しない、ということはクロか? いや、関与していないから単純に尋ねている可能性もある。 「対象が被害に遭う原因となった情報。その拡散速度があまりにも異常だと思いませんか? 4月が始まって間もないというのに、一瞬で広まりました」 「ほう?」 「情報の発信源を調べたところ、面白いことが分かりましてね。ほぼ同じ時間に、複数の人間から発信されていました」 それも特定の学年ではな全学年で、だ。 「つまり、真の流出源が隠ぺいされているということか?」 「ええ」 「しかしだからと言って生徒会が関与している証拠にはならないだろう?」 「もちろんです。そこでこの学園のシステムが浮上してくるんですよ」 「なるほど。そういうことか」 さすが生徒会長の右腕といったところか。 弘志は内心で感心したように呟く。 久遠坂学園は省力化や情報化社会に対応するために、至る所でITが応用されている。 特に各校単位で構築されている情報ネットワークは目覚ましいものがある。そしてその網を自由に扱えるのが生徒会と学園職員だ。 特定の人間に連絡を取ることも、複数の人間や全校生徒に連絡することも可能なこのシステムを、第一級の権限を持つ人間が使ったとしたら異常なスピードでの情報拡散や同時複数の発生源にも合点がいく。 「ところが、だ。これには致命的な欠点がある。情報公開制度を忘れていやしないかな?」 「……もちろん知っていますよ」 情報公開制度とは、この情報ネットワークが権限を持つ人間に悪用されないためにつくられた制度だ。 連絡網を介した連絡を一度でも行うと、発信者や送信者、送信内容まで記録され、後日個人名や内容は伏せられた状態でいつ、どこの組織が、どのような内容を、どのようなあるいはどの程度の人間に発信したかが電子上で公表される。 つまりこのネットワークを利用した生徒会の関与説は否定されてしまう。 「まあ、これは仮定の話に過ぎないが、生徒会長なら或いは関与しているかもしれない」 「…………どういうことでしょうか?」 ここで身内の疑惑を持ち出してくるとは思いもよらなかった弘志。 聞き流してはならないが、確実ともいえない話に、警戒しつつ食らいついたような言動を見せる。 「生徒会長がどういう人間か、君なら知っているだろう? アレは快楽主義者だ。無論ただの快楽主義者ではない。様々な能力に長けた、性質の悪い存在だ。己が目的のためならば、血縁者であろうと贄として捧げる。そして私はそれを間近で見て来た」 あくまでも冷静に、しかし批判的に告げる美佐枝に、弘志は困惑していた。 果たして誠二の情報をこのまま彼女に渡してもいいのだろうか、と。 「確たる証拠がない以上、この話はただの世間話のひとつにすぎません。それよりも、貴女が欲しているという情報はなんでしょうか?」 弘志のその言葉は、ある程度は信用してやるという譲歩であり敗北の合図だった。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1224.html
304 :『ハンゾウッ、タイマンだZE!!』その1 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] :2009/04/21(火) 21 22 49 ID byGE+nEo 1 太陽は高く雲無く輝く。正午前、四時間目の授業。クラスの一番廊下側、一番後ろの席で、オレは全員の視線を一身に集める。 奇声を発して机を叩き、席を立って後ろ戸をスライド。 「腹痛いんで、トイレに行って来ます……」 止める奴なんて居ない。 静まり返った空気の中で、声を掛けれる鈍感な奴なんて居ないんだ。 「もっ、早過ぎるだろっ!? 昨日の今日だぞ?」 廊下を走り、駆け抜け、長い階段を上へ、上へ。 五階まで来て、使われてない準備室の隣に在るトイレまで来て、何の躊躇も無く、女子トイレの中へ、奥へ。 すると聞こえるのは、 「んっ、んにゅ……んんっ、ふぁあぁっ」 小さな、小さな、喘ぎ声。 奥の個室、扉一枚向こう側。鍵なんて掛かって無いドアノブをひねれば、 「おそ、いっ……わよぉっ、拌羅(ステラ)、おねえちゃん♪」 洋式の便座に腰掛け、ミニスカートを捲くり、白いパンツの上から指を擦り当て、気持ち良さそうにオナニーをする双子の妹。 妹の浮音(シフォン)が、学校のトイレで、オレの目の前で、オナニーしてた。 「オレを、姉と呼ぶなっ!! 早くヤメなさい!!」 信じられない。どうしてこんな事になったの? どうしてこんな場所で、こんなものを見なくちゃいけない? 「ほらっ、お姉ちゃん……いつもみたいに、貝合わせしよっ? ぬっちょぬっちょ吸い付かせてさ、エッチなオユでくっつかせようよ? クリも擦り合わせて、ベロチューして、悶え合って、むさぼり合おうよ? お姉ちゃんの、おっきくて、熱くて、カチカチのクリトリス……膣内に欲しいな?」 オレと同じ顔の妹が、同じ顔の兄を誘う。シルクの生地にシミを作り、ネバ付く糸と湯気を立てて。 丸く大きな瞳は潤み、肌は髪の色と同じに紅く染まる。本当に、興奮してるんだ。 双子の兄貴なのに。戸籍はどうあれ、シフォンの兄で居ようと決めたのに…… いつ、どこで、どこが、誰が、間違った? 「はっ」 そんなの決まってる。オレ達双子の兄妹は、産まれた時から、瞬間から、運命の唄の命ずるままに。 この関係だって、オレが姉、妹が弟になる可能性は多分に有った。 けど、きっと、必ず、それでも、二人は今と同じ間違いを侵していただろう。 同じ髪に、同じ瞳に、同じ唇に、同じ体格なのに。胸の大きさも、お尻の丸みも、腰のくびれだって同じ。声だって殆ど一緒。 ただ一つ……足の付け根に存在する性器が、男か女かってだけ。 オレとシフォンは同じ日、同じ時間に産まれ、同じ性器を持って育った。男と女、その両方。つまりは両性具有(アンドロギヌス)。 そして四歳を迎え、性別を決める段階で、オレは女の、シフォンは男の性器を捨てた。何の問題も無く、兄と妹として、成長して行く筈だったんだ。 だけど、そんな儚い夢さえ叶わない。オレの身体は妹とうりふたつ。どこまでも、いつまでも、女らしく、女らしく。 それだけじゃない。オレとシフォンは繋がってるんだ。シフォンの受ける痛みや、苦しみや、快楽は、全部ダイレクトに伝達される。 でもその逆は違う。オレからシフォンに繋がるのは快楽だけ。それ以外は一方通行。 だから、だから。だから……だからオレはっ!! 女の顔してっ、女の身体してっ、授業中にスカート持ち上げてっ、チンポおったてる変態になったんだっ!! シフォンが所構わずオナニーなんてするからっ。存在しない女性器が疼いて、熱くなって、イキたくて、たまらないよ。 たくさん近親相姦して、いっぱい中出しエッチして、シフォンの絶頂はオレに伝わり、オレのと合わさって更にシフォンへと戻る。 そこからまたプラスされて、いつまでも加算されて、二人の中を駆け巡って、気を失うまでイキっぱなし。 学校でも、ファミレスでも、デパートでも、満員電車の中だって……女同士のフリして、仲の良い姉妹のフリして、くっついて、イチャついてっ!! 公共の場で、チンポをハメてる。 305 :『ハンゾウッ、タイマンだZE!!』その1 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] :2009/04/21(火) 21 24 41 ID byGE+nEo 2 もう、そんなのはイヤだっ!! 普通の兄妹に戻りたいよ。 でも、そんなの既に…… 「んんっ、どーしたのステラお姉ちゃん? ふぅっ、早く脱がないとシフォン、イッちゃうよ? パンツの中で射精しちゃうよ?」 どうしようもないよ。 とにかく今は、下着を脱ぐ事だけを考えれば良い。 シフォンは濡れて張り付いたパンツの上から、クリトリスを右手の爪先でカリカリと引っ掻き、 そして空いた左手の人差し指と中指は、アヌスの入り口をなぞり弄りながらほぐしてる。 「まって!! まだイクなシフォン!! すぐにパンツ下げるからぁっ!!!」 身体が震えた。何をしようとしてるか一瞬で理解する。 オトコの子だぞっ!? ダメっ、そんなの絶対ダメぇっ!! お尻に挿れられてイキたくない!! 二本なんて、はいら、ないよぉっ。 「んむっ……」 スカートを捲くり上げ、口で咥えて急いでストッキングに手を掛ける。 できるだけチンポを目立たなくする為に、パンツの上にキツい黒ストッキングを穿いて締め付けて来た。 「ふっ、むぐぅっ……」 でも、それすらも裏目。パンツとストッキングを一緒に下ろそうとするけど、勃起するチンポに引っ掛かって中々はかどらない。 イク寸前の敏感な部分を、余計に刺激して射精を促すだけ。 「ぁあぁっ!! おねっ、ちゃん……シフォン、イクねっ? んにゅ、シフォンの指……感じてね? ふんんっ、イクっ! イクよぉっ!! おねっ、ふあぁぁああぁぁぁぁぁぁっ♪♪♪」 硬くなったクリトリスをキュッと抓(つね)り、長い愛撫ですっかり弛筋したアナルの中へ、熱い愛液でふやけた二本の指を思いっ切り差し挿れた。 狭い腸内を分け入り、前立腺も、腸壁のヒダヒダも、指を折り曲げてゴリゴリと抉り、容赦無くこそぎ落とそうとしてる。 オレにも同じ。まるでお尻にペニスを挿れられ、激しくピストンされてるかのよう。 そんな事されたら、次々と精子を作り出して、次々と管を通して、尿道へと噴き上げるしか無い。もっ、だめっ。 「ヤメろシフォン!! ヤメっ、ふぎいぃっ!!? っああぁぁっ……とまんない、よぉっ」 ビュクビュクといつまでも終わらない音を響かせて、ストッキングの中に、パンツの中に、大量の精液を漏らした。 力が抜けて膝が崩れ、トイレの床にアヒル座りの格好でお尻を着く。 精液はパンツを濡らし、黒いストッキングにも滲んで白濁に汚していた。 さいあく、サイアクだよ。幾らシフォンの感触だって、お尻を犯されて気持ち良くなるなんて最悪過ぎる。 オレは、ワタシは、妹から離れられないの? 「大好きだよ、お姉ちゃん……ねっ、シフォンに種付けして?」 便座に腰掛けたまま、パンツを横にズラしてアソコを両手で拡げる、たった一人の妹から。 私と同じ髪を肌に張り付かせ、同じ瞳を蕩けさせ、同じ胸を弾ませて、違う性器をヒクつかせてる。 そんな妹に私は…… 306 :『ハンゾウッ、タイマンだZE!!』その1 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] :2009/04/21(火) 21 25 42 ID byGE+nEo 3 はっ、ばっかじゃねーの? 実の兄妹でセックスとかさ、気持ちわりぃよ。 一応ブックマーク登録してページを閉じ、携帯を畳んでブレザーの内ポケットへ。 暇潰しに流行りの携帯小説を読んで見たが、俺にはさっぱり理解できん。昔、ケンシンねぇが買ってた少女漫画には、兄妹恋愛の話しとか在ったし、面白かったけど。 天使禁猟区ってタイトルも未だに覚えてる。実写映画化した、僕は妹に恋をするってのはツマランかったがな。 まぁ、だから兄妹の恋愛を書く奴なんてみんな女さ。認められない禁断の愛に、悲劇のヒロインを気取りたいだけだ。 禁断の愛をテーマに掲げる、実際には存在しない有りがちなフィクション。 「くだらん……」 俺だってそう。ケンシンねぇが実姉だったら、中学の時に三回も告白なんかしない。全部フラれて、もう諦めちまったけど。 本気、だったなー…… 椅子の背もたれに体重を預けたまま、天井の蛍光灯を眺めて溜め息を吐く。広い学食の隅、二人掛けのテーブルで、ラーメンを啜る友人を目の前にして。 「溜め息をするな。メシが不味くなるだろ……何か、あったのか?」 昼休み、雑音と生徒が溢れ返る場所で、それでもコイツは箸を置いて俺の心配をする。 こんな五月蝿いのに、さっさと昼飯を食っちまえば良いのに、メシを食おうとしない俺を文句を言いつつも当たり前に気遣う。 勉強も出来て、運動も出来て、社交的で、誰にでも優しい。軽い口調なのに人が心から傷付く事は決して言わないし、ファッション雑誌に乗っててもおかしくない顔と体型。 同じ男の俺でも、コイツだけは特別だと思う。そんな奴だから、学食の隅でボーっと携帯を弄ってる俺が気になり、他の友人達を断って前の席に腰を下ろしたのだ。 コイツは、加藤 綱(かとう つな)は、俺がこの学校で悩みを打ち明けられる、唯一の親友。 「いや、さ……知り合いの授業参観へ、俺が父親代わりで出席する事になってな」 昼休みが終わった後、学校を早退し、家で着替え、ミツヒデの通う小学校に向かう。 それが憂鬱で、食欲も湧かずに携帯小説を読んでいたのだ。 「はっ? 授業参観ってよ、家族以外が行っても良いもんなのか?」 綱はテーブルに左肘を着き、その手の上にアゴを乗せる。 一見だらしないポーズも、コイツだとサマになるから不思議だ。それでも失恋した事が有るってんだから更に不思議。加藤以上の男なんて、そうそう居ないと思うんだがな? 「あー、隣人が父親代わりに出席するのを担任が許可したんだと。実際は兄代わりらしい。まっ、どっちにしても……行くのがめんどい」 去年まではケンシンねぇが出てたらしいが、今年は外せない用事とやらで行けない。 それで一昨日の夜にピンチヒッターを頼まれ、昨晩はミツヒデが学校で許可を貰ったと嬉しそうに報告して来た。 なら、拒否なんて無理な話し。二人の期待に応えるだけさ。 深く息を吸い、大きく吐き出し、三度も繰り返し、手付かずの食器を持って席を立つ。 「諦めて行ってこい、頑張れよ××××。恥を掻かない様にな」 そんな何気無いセリフを聞いて、微笑して手を振る加藤を見て、唐突に…… 「ぐうっ!?」 本当に突然に、グラリと足元が揺らいだ。 一歩下がる間に下半身へと神経を集中させ、足場を固定し直してバランスを取る。 食器は震えただけ、中身は僅かも零れてない。だけどどうしてだ? 「おい、大丈夫か××××?」 加藤も席を立ち、心配そうに俺の肩を両手で掴む。 「××××?」 何故だ? 加藤に名字を呼ばれただけだぞ? とにかく、返事をしないと。 「はっ、心配すんな加藤。だから……」 だから加藤、お願いだから……俺を、名字で呼ぶな。